開幕戦で史上最多の4万人 プレミア12優勝&WBC出場権獲得で“追い風”の台湾プロ野球

今季の平均試合時間は昨季より15分以上短縮された
昨年11月のプレミア12で、主に台湾プロ野球(CPBL)の選手で構成された台湾代表は、決勝で侍ジャパンを4対0で下し、主要国際大会で悲願の初優勝、台湾は一大フィーバーとなった。そうして迎えた今年2月のWBC予選、出場を志願したキャプテンの陳傑憲(統一ライオンズ)を除き、プレミア12と布陣を入れ替え臨んだ若手主体の台湾代表は、苦しみつつも、地元ファンの期待に応え本大会の出場権を獲得、新たなシーズンへ野球熱をつないだ。
3月29日に開幕した今年の台湾プロ野球は、ここまで1か月あまり、好調な滑り出しをみせている。上記の国際大会の好成績による「追い風」ムードに加え、大物海外チアリーダーの「補強」やイベントデー開催など、各チームがエンタメ要素をより強化したことで、78試合終了(数字は全て5月6日時点)で1試合平均9881人と、1万人に迫るペースを維持。台北ドームの運用、16年ぶりの6球団制で、年間入場者数で初の200万人台を達成、1試合平均も史上最多の7684人を記録した昨季を上回る盛り上がりをみせている。
CPBLでは昨季からピッチクロックを正式に導入したが、選手も慣れ、また運用がより厳格となったのだろうか、今季ここまでの平均試合時間は2時間52分と、昨年の3時間8分に比べ15分以上短縮され、ファンからも好評を博している。またCPBLは、休祝日の試合開始時間について、球団が午後2時5分、3時5分、4時5分、5時5分の4つの時間から自由に選べるように規則を改めた。観戦体験をより快適にするためのこうしたルール変更も、観客増に寄与している可能性は十分にありそうだ。
現状、球場別の観客数だけをみれば、「常打ち球場」ではない台北ドームが圧倒的ではあるものの、1試合平均人数では前年比で約10%減、むしろ、各球団の本拠地開催試合の伸びが顕著となっており、長期的な視点からいえば良い傾向といえよう。
3月29日の開幕戦は史上最多となる大入り4万人のファンが集結
ここからは台湾プロ野球の開幕から1か月あまりの振り返りと、注目のトピックを紹介する。まずは3月29日、台北ドームで行われた統一ライオンズと中信兄弟による開幕戦。台湾プロ野球では、前年の台湾シリーズ出場チームが他のチームに先駆け開幕戦を行うのが恒例となっている。以前は、前年王者の本拠地での開催も恒例であったが、連覇を目指す平野恵一監督率いる中信兄弟は、昨年の味全ドラゴンズと同様、台北ドームを開幕の地に選んだ。熱狂的で知られる中信兄弟のファンはもちろん、ビジターエリアのレフトスタンドには統一ファンも数多く駆けつけ、開幕戦として史上最多となる大入り4万人のファンを集めた。
統一はCPBL通算43勝のブロック・ダイクソン、中信兄弟は同66勝のホセ・デポーラと、ともに来台6シーズン目を迎える外国人投手が先発した。統一が1対0とリードし迎えた6回、1死満塁からプレミア12代表の潘傑楷が前進守備の内野の頭を越えるライト前2点適時打でデポーラをKOすると、1点を追加し、なお満塁から代打・41歳の胡金龍が走者一掃の右中間2塁打で3点追加。今季限りでの引退を表明している元メジャーリーガーの一振りで試合を決めると、7回には、こちらもプレミア12代表の4番・林安可の右翼席への「2025年CPBL第1号」ソロも飛び出し、統一が8対0で大勝。初の開幕投手に選ばれ、5回2/3を無失点に抑えたダイクソンがMVPに輝いた。
前期シーズンここまでの戦いぶりをご紹介しよう。5月6日現在、17勝9敗で首位に立つのは、昨季は前期シーズン優勝も、台湾シリーズで後期優勝の中信兄弟に敗れた統一だ。開幕4連勝もすぐに4連敗を喫するなど波はあるものの、台湾代表のキャプテン陳傑憲が牽引する「勢いに乗ると止まらない」チーム。今季も強打は健在で、本塁打数、チームOPSはリーグ1位。投手陣も、新加入した元NPBのC.C.メルセデスら外国人先発投手陣が安定、課題のブルペンもドラフト制度改正後、昨年6月のドラフト会議で、外国人として初めて指名された36歳の「オールドルーキー」高塩将樹が勝ちパターンの一員として、欠かせぬ戦力となっている。
2ゲーム差の2位につけるのが2023年の台湾王者・味全ドラゴンズだ。日米球界注目、CPBLナンバーワン台湾人投手の徐若熙は、4月15日にようやく初登板。防御率は1.15ながら、3試合に先発し2敗と未勝利だが、自慢の投手陣は今季も先発、救援を通じておおむね安定、チーム防御率2.26はダントツのトップだ。昨季、貧打に泣いた打線はこのオフ、FAで中信兄弟から陳子豪、楽天モンキーズから朱育賢とリーグを代表する左の強打者を補強。陳子豪はまだ本調子とはいえず、朱育賢は離脱期間もあったが、今季は郭天信や劉基鴻が復調し、チーム打率.266はこちらもトップだ。
台鋼ホークスの呉念庭は肉離れで戦線離脱、王柏融は調子を上げている
3.5ゲーム差の3位は、昨年王者、平野恵一監督率いる中信兄弟だ。投手陣に怪我人が多い中、統一から移籍し、エース候補と目されていたプレミア12ベネズエラ代表、マリオ・サンチェスの負傷は痛い。また、ブルペンでは昨季50試合以上登板した抑えコンビ、プレミア12代表の呉俊偉はいまだ実戦登板ができる段階になく、WBC予選代表の呂彦青も腰の怪我で離脱した中、新人の陳冠穎、伍立辰が抜擢された。プレミア12代表、黄恩賜が抑えを務め、その穴を埋めている。開幕前、主力選手の高齢化を課題として指摘していた平野監督は、人気チームゆえ重圧も大きいが、若手を育てながら連覇を目指す。
古久保健二監督率いる楽天モンキーズは開幕4連敗、主力野手の相次ぐ離脱もあり苦しいスタートとなったが、直近10試合で8勝、首位から4ゲーム差、12勝12敗の5割まで持ち直した。離脱まで打率、打点、本塁打でリーグトップだったプレミア12代表、林立もまもなく1軍復帰とあり、ここからAクラス入りを狙う。「1試合1試合が必死です」と語る古久保監督だが、昨年も苦しいチーム状況のなか、大崩れはせず、勝ちを拾って年間勝率3位に食い込んでプレーオフに出場した粘りのチーム、古久保監督の手腕に注目だ。
13勝14敗、4.5ゲーム差の5位は、1軍参入2年目の台鋼ホークスだ。春季キャンプの練習試合でWBC予選代表の陳文杰が今季絶望の大怪我を負ったほか、4月18日にはWBC予選代表の呉念庭も肉離れで戦線離脱。一時は、昨季「2冠王」の主砲スティーブン・モヤも肉離れで離脱と貧打に泣いたが、モヤは4月27日に復帰すると、史上7人目となる2試合連続の2本塁打を含め、7試合で6発の大爆発でチームを牽引。王柏融も調子を上げてきた。
投手陣では昨季、台鋼加入以来負けなしのブレイディン・ヘーゲンズや、先発転向の吉田一将ら外国人先発陣が奮起、防御率はリーグ2位の2.86で粘り強く戦っている。救援陣では、内野手で入団も昨季途中、投手に転向した20歳の張誠恩がセットアッパーとしてリーグトップタイの7ホールド、抑えに抜擢されたチェンジアップが武器の23歳、林詩翔がリーグ単独トップの8セーブ、無失点と奮闘。横田久則投手コーチの育成力も注目されている。
先発投手陣の外国人比率は65.7%…NPBの約2割を大きく上回る
7勝19敗で首位から10ゲーム差、最下位に沈むのは富邦ガーディアンズだ。オープン戦こそ3年連続の「優勝」を果たすも、投打の複数の主力が開幕に間に合わず不安視された中、苦しい戦いが続き、チームOPS、防御率はいずれもリーグ最下位。特に直近9試合は1勝のみと苦しんでいる。4月13日には、主砲の元メジャーリーガー、張育成がタッチアップを狙った際のヘッドスライディングで肩を痛め離脱と「泣きっ面に蜂」の状態だが、手術の必要はなくまもなく練習再開可能となったことは不幸中の幸いだといえよう。昨季ブレークし、プレミア12優勝時にマスクを被っていた戴培峰は今季も打撃が好調で、OPSはリーグ2位と奮闘している。
なお、開幕以降たびたびリーグ全体の課題として議論されているのが、先発における外国人投手の依存度の高さだ。3月29日の開幕戦、翌30日の3試合、計4試合の予告先発8人はいずれも外国人投手。移動日を挟み、ようやく4月2日に台鋼がプレミア12代表、陳柏清を立て、中信兄弟対富邦(新荘)では、鄭凱文と張奕による「元NPB対決」が実現したが、5月6日現在、規定投球回数到達の13人中、台湾人投手は、いずれもプレミア12代表の黄子鵬(楽天)と張奕(富邦)の2人のみとなっている。
台湾の大手紙『自由時報』のまとめによると、今季開幕から5月5日までの76試合の先発投手延べ152人中、100人が外国人投手(9年プレーし、外国人枠を外れた味全のブライアン・ウッドールを含む)であった。この比率65.7%は、外国人投手の先発の比率が約2割とされるNPB、約4割とされるKBO(韓国プロ野球)を大きく上回る。メディアやファンだけでなく、中信兄弟・平野監督や台鋼・洪一中監督ら現場からも、台湾人先発投手の育成のために、1軍の外国人選手枠3枠について、「3枠のうち1枠は打者とすべき」「4枠として打者2人、投手2人に」などルールを改めるべきという声が出てきている。
(「パ・リーグ インサイト」駒田英)
(記事提供:パ・リーグ インサイト)