杉本裕太郎「やってよかった」 泣き出す子どもに震えた心…紆余曲折経た野球人生

オリックス・杉本裕太郎【写真:栗木一考】
オリックス・杉本裕太郎【写真:栗木一考】

「あなたの夢叶えます presented by Bs選手会」で子どもが読書感想文を披露

 改めて野球をやっていてよかったと思えた瞬間だった。オリックスの杉本裕太郎外野手は、球団イベントで企画された自身の著書を題材にした読書感想文の発表に感激し、さらなる活躍を誓った。

「子どもたちに夢を与えることができてよかった。出版しようか迷ったけれど、出してよかった」。杉本が顔を上気させて、その日を振り返った。

 読書感想文の発表が行われたのは、本拠地での4月19日の日本ハム戦の試合前。ファンの夢を選手会が選び、球団が夢を叶えるお手伝いをするという内容の「あなたの夢叶えます presented by Bs選手会」で、杉本が昨年4月に自身初の著書として出版した「僕がラオウになる日まで ドラフト10位からの逆襲人生」(ベースボール・マガジン社刊)の感想文を、2人のファンが杉本の目の前で発表した。

 杉本は、青学大、JR西日本から2015年ドラフト10位で入団。大砲候補として期待されたものの1軍定着はできずにいたが、中嶋聡2軍監督が1軍監督代行を務めた2020年途中から1軍に抜擢された。2021年には32本塁打を放って初の本塁打王のタイトルを獲得し、25年ぶりのリーグ優勝に大きく貢献した。2022年には日本シリーズでMVPを獲得するなど日本一に導いた。

 そんな紆余曲折の野球人生を描いた本の感想文を、小学6年生の少年が号泣しながら読み上げた。「1軍のスタメンをつかむまで、腐らずにたくさん練習をして、いろんな努力をして経験を積んだからこそ今がある。カッコよくて、僕のあこがれの選手」と締めると、杉本は感激の面持ちで「よう頑張った」と少年をハグした。

 杉本が出版を躊躇したのには訳があった。本塁打は2022年から15本、16本と下降し、出版の話が舞い込んだ2023年には出場試合数が96試合にとどまってしまった。「(打診があったのは)ガンガンと(打って)結果を出した後のシーズンオフでもなかったし、そんなんで(出版して)ええんかな、と思ったこともありました」。

 それでも出版に踏み切ったのは「せっかくお話をもらったのだから、自分がどんな感じで来たのか、知ってほしいという思いがありました」と明かす。順風満帆な野球人生ではなかった自身の経験を語ることで、何かの役に立てることもあるのでは、とも考えた。それが正しい決断であったことを少年が証明してくれた。

「僕のホームランを見て野球を始めたという子どもさんが何人もいると聞いたこともあります。ああやって子どもが本を読んでくれ、目の前で泣きながら感想文を読んでくれているのを見ると、出してよかった。本当にうれしかった。もっと頑張ろうと思います」と杉本は誓う。プロ10年目。開幕直後から打撃は好調を維持している。5月に入った3カードで打率は3割を切ったものの「ヒットにならなくても、捉えている打球は増えてきています」と表情は明るい。

 実は、少年は昨年もこの企画に応募していた。しかし、杉本は打撃不振のため1軍選手登録を抹消され、企画が流れていた。打撃好調で2年ぶりに叶った少年の「夢」。杉本は、子どもたちが憧れ、記憶にも記録にも残る選手として輝き続けることを誓った。

○北野正樹(きたの・まさき)大阪府生まれ。読売新聞大阪本社を経て、2020年12月からフリーランス。プロ野球・南海、阪急、巨人、阪神のほか、アマチュア野球やバレーボールなどを担当。1989年シーズンから発足したオリックスの担当記者1期生。関西運動記者クラブ会友。2023年12月からFull-Count編集部の「オリックス取材班」

(北野正樹 / Masaki Kitano)

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