山本由伸、日本人初CY賞の可能性 専門家が指摘、2年目の飛躍と変化「良く見えている」

抑えが被弾して6勝目消滅も…チームを救った110球7回1安打無失点
【MLB】ドジャース 4ー3 Dバックス(日本時間21日・ロサンゼルス)
ドジャースの山本由伸投手は20日(日本時間21日)、本拠地で行われたダイヤモンドバックス戦に先発し、メジャー移籍後最多の110球を投げて7回1安打無失点の快投を演じた。9回に同点に追いつかれたため、山本の今季6勝目は消滅したが、防御率は1.86となり、リーグ2位に浮上。チームは延長10回逆転サヨナラ勝ちを収め、山本の投球が連敗を「4」で止める原動力となった。
この日の山本の投球を指して、米メディアの記事の見出しには「ace(エース)」の文字が躍った。バッテリーを組んだウィル・スミス捕手も試合後、「今日のヨシはエースにふさわしい投球だった」と表現した。
現役時代にNPB通算2038安打を放ち、MLBにも造詣が深い野球評論家・新井宏昌氏は「立ち上がりから凄く慎重でした」と評する。実際のところ、この日の山本には、慎重の上にも慎重を期さなければならない理由がいくつかあったのだ。
第一に、チームが前日(19日)までに今季ワーストの4連敗を喫していて、先発投手陣の中で最も安定している山本でも止められなかった場合、いよいよ歯止めが効かなくなる恐れがあったこと。特に、ドジャース投手陣が前日まで5試合連続で初回に失点していたことも間違いなく影響した。
そして山本自身が今月8日、ダイヤモンドバックスとの前回対戦で2本塁打を被弾し、5回を投げてメジャー移籍後ワーストに並ぶ5失点を喫していたことだ。新井氏は「前回対戦で満塁弾を打った5番のガブリエル・モレノ捕手、ソロ本塁打を放った2番のケテル・マルテ内野手に対しては、特に警戒していることが伝わってきました」と指摘する。
メジャー2年目の進化「生活リズムに慣れて周りがよく見えている」
スイッチヒッターで山本に対し左打席に入るマルテには、初回の第1打席でカウント2-2からインハイの150キロのストレートで詰まらせ、右飛に仕留めた。それでも4回の第2打席では四球で歩かせ、山本がこの日初めて許した走者となった。被安打0のまま迎えた7回先頭での第3打席は、カウント3-1から153キロのストレートを右越え安打され、チーム初安打を許した。
1点リードの7回、2死三塁のピンチで前回満塁弾のモレノを右打席に迎えると、それまでの2打席は打ち取っていたものの、慎重に四球で歩かせ、次のペイビン・スミス外野手と勝負。左打者のスミスにカウント2-2から内角の147キロのカットボールを振らせ三振に仕留めてると、思わず歓喜の雄叫びを上げた。
「山本は相手打者を1人1人研究した上で、反応を観察し、状況も考慮しながら、投げるべき球を丁寧に投げて“リベンジ”を果たしました。そこを“エースらしい投球”と評価されたのでしょう」と新井氏。「メジャー2年目で、使用球、移動、グラウンド内外の生活リズムなどに慣れてきたのでしょう。昨季に比べると余裕がうかがえ、相手打者を含めて周りがよく見えていると思います」と評する。山本は18試合7勝2敗、防御率3.00で終えた昨季から、着実にメジャーリーガーとして進化を遂げたようだ。
メジャー移籍後、完投はまだないが、新井氏は「メジャーでは完投よりも、シーズンを通して先発ローテを守り、安定した内容で100球ずつ投げ続けることの方が評価されます。また、打線の援護など運によって増減する勝利数よりも、投球回数、防御率、奪三振数などの方が評価されると聞いたことがあります」と強調。「NPBの沢村賞には、“10完投以上”を含め7項目の選考基準がありますが、メジャーの投手にとって最高の栄誉とされるサイ・ヤング賞には、明確な基準はありません。もちろん山本も候補の1人になっていくと思います」と付け加える。
2020年にナ・リーグのサイ・ヤング賞に輝いた実績を持つDeNAのトレバー・バウアー投手は、史上初の沢村賞との“両獲り”を目標に掲げている。だが、沢村賞3回の山本がバウアーの先を越す可能性も十分ありそうだ。
(宮脇広久 / Hirohisa Miyawaki)