大谷翔平はHRダービーに「出ない方がいい」 専門家が懸念するMLB独自の“過酷なシステム”

ドジャース・大谷翔平【写真:Getty Images】
ドジャース・大谷翔平【写真:Getty Images】

賞金約1億4500万円をかけてオールスター前夜に開催

 ドジャースの大谷翔平投手は7月15日(日本時間16日)にアトランタで行われるMLBオールスターゲームへの出場に向け、ナ・リーグDH部門のみならず、ナ・リーグ全体でもトップの得票数を獲得している。日本時間27日午前1時締め切りの1次投票で、リーグ全体トップの座をキープすれば、その時点で5年連続での出場が決まる。注目されるのは、オールスター前夜に開催されるホームランダービーへの参加の是非だ。

「現状の大谷がホームランダービーに出る意味は、あまりないと思いますし、出ない方がいいと思います」。現役時代にNPB通算2038安打を放ち、MLBにも造詣が深い野球評論家・新井宏昌氏はそう言い切る。

 今年のホームランダービーは、選出された8選手が賞金100万ドル(約1億4500万円)をかけて争う。1回戦は全選手が制限時間内の柵越え数を競い、上位4人が決勝トーナメントに進出する。制限時間は1回戦と準決勝が3分、決勝が2分。また、1回戦と準決勝には40球、決勝には27球の球数制限も設けられている。制限時間(または球数制限)終了後、「ボーナス期間」に入り、柵越え以外を全て「アウト」とカウントして3アウトまで打ち続けることができる。ボーナス期間中に425フィート(約130メートル)の特大アーチを放つと、アウトカウントが1つ増える。体力的にはなかなか過酷なシステムである。

 新井氏は「全力のスイングを数分間やり続ければ、いくらメジャーリーガーでも、体にかなり負担がかかります。さらにホームランを打てば打つほど、飛距離が出れば出るほど、長く打たないといけないシステムです」と指摘。「1億円超の賞金を取ってやろうという選手、世界へ向けて自分の長打力、存在をアピールしたい選手、あるいは2019年と2021年のホームランダービーを制したメッツのピート・アロンソ内野手のように、優勝回数の記録を更新したいというような選手は出ればいいと思います」と見解を示す。

昨季メジャー最多58本塁打のジャッジはニューヨーク以外出場しない意向

 一方で、「もちろんファンサービスの意味はあると思いますし、大谷もエンゼルス時代の2021年には出場しました。しかし、その後2023年と2024年に2年連続本塁打王を獲得し、長打力は証明済みですし、世界中の誰もが認めている。確固とした実績をつくる前ならともかく、今の大谷自身にとって、ホームランダービーに出てプラスになることはないと思います」と新井氏は指摘する。

 昨季メジャー最多の58本塁打を放ち、今季は3冠王を狙える位置につけているヤンキースのアーロン・ジャッジ外野手や大谷は、もちろん出場者にふさわしい。しかし昨年、大谷は前年に右肘を手術していたこともあってホームランダービー出場を辞退し、ジャッジも出場しなかった。また、ジャッジはオールスターが本拠地ヤンキースタジアムで開催される場合以外、ホームランダービーには参加しない意向を明らかにしている。

 2021年に出場した時の大谷は、1回戦でファン・ソト外野手(当時ナショナルズ、現メッツ)に敗れた。新井氏は「あの時の大谷は、センター方向へのホームランが持ち味なのに、距離の短いライト方向へ気持ちが向いてしまい、ラインドライブの打球が増え、投球に逆らわずセンターから逆方向へ打ち返していたソトに敗れました」と回顧する。

「大谷のスイングは本来、内角低めの球をバックスクリーンに放り込むことができるインサイドアウト。しかし打球を飛ばそうとすると、どうしても引っ張る動きになり、アウトサイドインのスイングになりがちです。打撃を崩し、オールスター明けの公式戦に悪影響を与える恐れもあります」と警鐘を鳴らす。

 ホームランダービーは野球の華。しかし、もし、シーズン終盤の勝負所やポストシーズンで本塁打を連発する大谷の姿と“二者択一”だとすれば、ファンがどちらを見たいかは言うまでもないだろう。投手復帰を果たしたばかりの大谷自身の判断はいかに──。

(宮脇広久 / Hirohisa Miyawaki)

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