HRキング独走も…佐藤輝明が抱える“課題” MVP捕手が分析、野球人生を占う分岐点

阪神・佐藤輝明【写真:小林靖】
阪神・佐藤輝明【写真:小林靖】

中日・巨人・西武で活躍した中尾孝義氏が指摘

 プロ野球はリーグ戦が再開し、レギュラーシーズンも折り返し地点に差し掛かった。「サトテル」の愛称で親しまれる阪神の佐藤輝明内野手は、19本塁打で12球団トップを独走している。中日でMVPに輝いたのをはじめ巨人、西武と3球団で名捕手として活躍した野球評論家・中尾孝義氏は、現役引退後は阪神でもコーチを務めた。「僕も阪神にいましたから、タイトルをぜひ獲って欲しい」と熱望する。

 中尾氏は「あの打席を見て、『今年のサトテル、打ち方が全然違うじゃん』と驚きました」と振り返る。その打席はシーズン開幕前、3月16日に東京ドームで行われたカブスとのエキシビションゲーム。両チーム無得点で迎えた4回、サイ・ヤング賞2回を誇る左腕ブレイク・スネル投手が外角高めに投じた152キロのストレートを右翼席へ運ぶ3ランを放った。

「表現は少し悪いですが、それまではほぼ“メチャ振り”をしていました。それがミートというか、バットがコンパクトに出ていました。高めの球に対してもバットの軌道が振り上げる形になっていたサトテルが、あの打席ではヘッドが立った状態で球をとらえていました」と説明する。

 昨季は16本塁打で入団以来初めて20発に届かなかった。プロ5年目は、まだシーズン半ばというのに昨年を上回っている。内容的にも豪快に引っ張るイメージの強かった佐藤輝だが、19本の内訳は右へ9発、中堅から左へ10発と広角に打ち分けている。

「スイングが明らかに違います。誰が教えたのか分からないが、あれだけ変わっているのは絶対に誰かからヒントを貰っているはずです」と中尾氏。今季から加入した打撃チーフの小谷野栄一コーチら首脳陣の指導が大きいのではと推察する。

 タイガースの本拠地・甲子園はライトからレフト方向へ吹く浜風が名物。左バッターが引っ張ると打球が影響を受けて、伸びを欠くことが多い。今年の佐藤輝の打球方向は大きな意味を持っている。

バース、掛布も挑んだ浜風の甲子園でも佐藤輝は「もっともっと打てるようになる」

 阪神の選手で本塁打王のタイトル獲得となれば、39年ぶりとなる。中尾氏がプロ入りした1981年以降で阪神のホームランキングは1982、1984年の掛布雅之と1985、1986年のランディ・バース。両内野手ともに佐藤輝と同じ左打者だ。

 中尾氏はマスク越しに対戦した“レジェンド”の技術の高さを回想する。「浜風に乗せてレフトに放り込まれないようなリードをしなくてはいけなかった。本当のアウトローならホームランは出ないが、ちょっとでも高くてコースが甘いと駄目。といってインコースばかり攻められない。あの2人は逆風でもライトへ持っていきましたからね」

 ホームランバッターの宿命とはいえ、佐藤輝は両リーグ最多の86三振(27日現在)。中尾氏は課題をこの数字に見る。「ボールになる低めの変化球をまだまだ振ってしまう。なぜかと言えば、下半身をうまく使ってないからです」

 さらに説明を加える。「前の右足のステップがドーンといっちゃってるんですよ。これが“ながーく(長く)”ステップできるようになれば、それに連れて上体の動きがスムーズにいく。ボールを、もっと見れるようになります。これが今後できるかどうか。彼のこれからの野球人生においてターニングポイントになると思います」

 中尾氏は「今年あれだけスイング的に変われたのは、サトテル本人も色々考えるところがあったのでしょう。将来的に、もっともっといいバッターになれます」と断言。猛虎の大先輩2人のような打者にまで成長できると期待している。

(西村大輔 / Taisuke Nishimura)

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