12球団トップのチーム打率も「期待はしません」 川島慶三コーチが取り入れた“自己申告制”

オリックス・川島慶三1軍打撃コーチ【写真:北野正樹】
オリックス・川島慶三1軍打撃コーチ【写真:北野正樹】

川島コーチが大切にする選手ファーストの指導

 オリックスの打撃が好調だ。開幕から3か月、チーム打率は12球団トップの.261(7日時点)を誇り、スタートダッシュの原動力になっている。嶋村一輝コーチとともに野手陣を率いる川島慶三1軍打撃コーチの指導理念とは。

「選手に寄り添うことと信じることですね。あとは期待はしません」。川島コーチが、柔和な顔を引き締めた。

 選手に期待するのが指導者として当然かと思ったら、ちゃんと理由があった。「期待を持つと『なんでできないんだ』とか、変な感じになっちゃうんです。僕にはそういう感情はないので、選手を絶対的に信用することをモットーにしています」と言い切る。

 川島コーチは、佐世保実(長崎)、九州国際大から2005年大学生・社会人ドラフト3位で日本ハムに入団。俊足好打、内外野を守れるユーティリティプレーヤーとして活躍し、トレードでヤクルト、ソフトバンクにも在籍。戦力外通告を受け2022年に入団した楽天で現役生活を終えた。

 指導の基本となっているのは自身の経験。「選手をやっていて、できないことの方が多かったんです。だから(コーチになっても)『なんで』と思う必要がないんです。選手はうまくなるため、1本のヒットを打つためにしか目標を持っていないんです。打てなかったら、次の対策を優先するんです」。

 楽天で2年間、1軍と2軍の打撃コーチを務めた。敵チームとして見ていた昨季のオリックスのチーム打率はリーグ5位の.238。しかし、川島コーチは「(打てずに優勝を逃した)その部分がフォーカスされますが、そういう時もあります。ここが悪かったというものはなかったんです」と明かす。

 選手とコミュニケーションを取り、考えを尊重する。「今まで教えてもらっていたコーチの教えを崩すことはしません。選手がプラスになると思うことは、優先してやってほしいと思っています。選手の野球人生なので、それを邪魔しないじゃないですが、ちょっとでも手助けをしたいんです」。打撃練習では常に選手に話しかけ、会話を通してさりげなくアドバイスを送る。

 選手に求めるのは「1球目を大事にする」こと。「それをおろそかにして、ふわっと(打席に)入ると1球を無駄にすることになります。その1球が命取りになるんです。ファーストスイングのためにどれだけ準備をするか。ネクスト(バッターズサークル)でしっかりとボールを見て、ベンチで配球を読む。全てそこなので」。

 早出特打の仕組みも変えた。「昨年までは指名練習のようだったらしいのですが、自己申告制にしました」と言い、希望する選手は前日までにロッカー内のホワイトボードに名前を書き込むスタイルにした。「今年は呼ぶのではなく希望です。誰かがやれば、競争になって活性化につながるんです。1年間、(選手に)ボーっとする時間をつくらせたくないんです」。

 6月末のチーム打率は.263。昨シーズン終了時より2分5厘も高いのは、選手ファーストの指導によるところが大きいのは間違いない。「楽しみです。可能性しかないです」と就任直後から選手を信じてきた川島コーチの指導が“開花”の兆しをみせている。

○北野正樹(きたの・まさき)大阪府生まれ。読売新聞大阪本社を経て、2020年12月からフリーランス。プロ野球・南海、阪急、巨人、阪神のほか、アマチュア野球やバレーボールなどを担当。1989年シーズンから発足したオリックスの担当記者一期生。関西運動記者クラブ会友。2023年12月からFull-Count編集部の「オリックス取材班」へ。

(北野正樹 / Masaki Kitano)

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