来秋ドラフト候補に浮上…159キロ右腕が残した衝撃 10秒絶句に見た“素顔”「無理なんです」

試合後の会見に臨んだ仙台大・佐藤幻瑛【写真:加治屋友輝】
試合後の会見に臨んだ仙台大・佐藤幻瑛【写真:加治屋友輝】

2点リードの8回2死満塁ピンチで登板→米国代表の4番をインハイ速球で三振斬り

 剛球右腕の素顔は、実にユニークだ。第45回日米大学野球選手権大会は12日、新潟市のHARD OFF ECOスタジアム新潟で第4戦が行われ、侍ジャパン大学代表が6-5で競り勝った。日本のメンバーは今秋ドラフト候補の4年生がめじろ押しで、ネット裏席にはプロのスカウトが大勢足を運んでいたが、この日は3年生の仙台大・佐藤幻瑛(げんえい)投手が159キロを計測。スカウト陣は来年のドラフトへ向けて熱視線を注いでいくことになりそうだ。

 6-2とリードし8回の守備に就いた日本だったが、2点を奪われた上、なおも2死満塁とされ、相手の4番ドリュー・ビューレス外野手を右打席に迎えた。1打同点、1発を食らえば逆転される大ピンチである。ここで日本の5番手投手としてマウンドに送られたのが佐藤だった。

 初球、内角低めの156キロのストレートで見送りストライクを取る。そしてカウント2-2から、内角高めのストレートでビューレスのバットに空を切らせた。スコアボードには「159キロ」が表示され、スタンドにどよめきが広がった。佐藤にとっては今春の紅白戦でマークした158キロの自己最速を、1キロ更新したことになる。

 自己最速のストレートを投げ込み、絶体絶命のピンチを脱出した佐藤。度胸満点のマウンドさばきに見えたが、試合終了後、観客を前にしてのヒーローインタビューでは意外な素顔をのぞかせた。

 159キロを計測した感想を聞かれ、「毎回出せるように頑張りたいと思います」と応じた佐藤だったが、続けて「まだ3年生ですが、今後何キロまで出したいですか?」と質問されると、なぜか約10秒も絶句。まさかの沈黙に、スタンドからは159キロを計測した時とは違う種類のどよめきが起こり、一塁側ベンチ内で聞いていたチームメートからは笑いが漏れた。その後なんとか「165は投げたいです」と小さな声で言葉を絞り出した。

青森県黒石市出身、柏木農高時代は食品科学科で勉強

「無理なんです。1対1ならいけるのですが、人に囲まれたりすると言葉が出てこないです」。帰途に就こうとする佐藤を単独でつかまえて話を聞くと、こう打ち明けた。

 青森県黒石市出身で、同県立柏木農高時代は甲子園出場なし。学業の方では同校の食品科学科に所属し、ジャムづくりや味噌づくりを学んだという。「今は標準語で話そうとしているのですが、たまに出身地の訛りが出てしまいます」と照れくさそうに笑う。

 仙台大進学後にめきめき頭角を現し、今年の仙台六大学野球春季リーグでは7試合2勝1敗、リーグ2位の防御率0.67をマーク。常時150キロを超えるストレートに、140キロ台のツーシーム、130キロ台のカットボール、120キロ台のスライダーなどを交え、相手打者を寄せ付けない。「先発もリリーフも、どちらもできる感じでやっていきたいです」と頼もしい。

 幻瑛という名前については、「“瑛”という漢字には“結晶”という意味があって、『幻の結晶のような人生を送ってほしい』ということで両親がつけてくれたと聞いています」と説明する。2026年の秋を迎える頃にはどれだけ桁違いの存在になっていることか、想像するだけでもワクワクしてくる。

(宮脇広久 / Hirohisa Miyawaki)

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