原辰徳氏が見た日米の野球の未来 国際ルールや“暗黙の了解”にも踏み込む【マイ・メジャー・ノート】

原辰徳氏(左)とオリオールズ・菅野智之【写真:木崎英夫】
原辰徳氏(左)とオリオールズ・菅野智之【写真:木崎英夫】

甥の力投を見る前に訪れた聖地

 巨人の前監督で、オーナー付特別顧問を務める原辰徳氏が、今季メジャーに挑戦し奮闘する甥のオリオールズ・菅野智之投手を現地で激励。父・隆志さん、母・詠美さんらとともに、菅野の前半戦最後の登板を暖かい眼差しで見つめ、6回を投げ切り3失点の好投で7勝目を挙げた右腕に賞賛の拍手を送った。菅野の雄姿を記憶に刻んだボルチモアで原氏は、Full-Countの単独取材に応じ日本野球への思いを紡いだ。【全2回の後編】(取材・構成=木崎英夫)

 試合前、原氏は、オリオールズの本拠地オリオール・パーク・アット・カムデンヤーズから徒歩で約10分の「ベーブ・ルース生誕地博物館」を訪れた。そこで野球の神様と謳われるルースの遺品の中に全米オールスターチームの一員として甲子園でプレーした際の記念プレートを目にし、日米交流の深い歴史に感慨を新たにした。

 原氏は、高校、大学で全日本メンバーに選出され米国でのプレーを経験。巨人時代には助っ人外国人選手たちと共闘し、日米野球ではメジャーリーガーたちと親交を深めた。また2009年のワールド・ベースボール・クラシック(WBC)では侍ジャパンの監督としてドジャースタジアムで世界一の美酒を味わっている。

死球を受けても笑顔を見せるドジャース・大谷翔平【写真:ロイター】
死球を受けても笑顔を見せるドジャース・大谷翔平【写真:ロイター】

国際基準と「ルールは一緒にしなきゃダメ」

 国際大会の経験豊富な原氏に、まずは、日本の野球について思うところを聞いた。

「野球そのものの雰囲気的なものはね、そんなに変わっているとは思わないんだけど、(投手の)スピードも含めて、全体のレベルは上がったと思う。ただ、じゃあそれを長続きさせる選手がいるのかっていうと、どうなのかな。とても怪我人が多く出ているという現状があって、そこの部分というのが、(今後)どういうスタイルでいくべきなのかって考えます。これは、永遠のテーマになってくるんじゃないかと思うんですけどね」

 14日には、西武の羽田慎之介投手が日本人左腕では史上最速となる160キロをマークし話題になったが、メジャーでは大谷翔平他、何人もの160キロ越え投手が毎年のように誕生し、群雄割拠の時代を迎えている。しかし、肘の故障で戦列離脱を余儀なくされる剛球投手が多くなっているのも事実だ。スポーツ・イラストレイテッド誌は先日のオールスター戦で2年連続ナ・リーグの先発を務めたポール・スキーンズ(パイレーツ)を特集。名物ライターのトム・ヴェルドゥッチが“剛球と怪我”の因果関係について健筆を振るったのは5月のことだ。

 美しい芝が張られたフィールドを眼下に見据えた原氏は、国際的な視野に照らす一項目について私見を述べた。

「ルールは一緒にしなきゃダメですね。例えばピッチクロックであったり、あるいはDH制であったり。他にもあるよね、2アウトになったら投手がするキャッチボールがそうですね。日本ではそれが許されてもこっちではフィールドにはプレーをしている選手以外は立っちゃいけない。だから国際大会でできないことをやっていても意味がないですよ。プレーだけじゃなくて足元から日本が国際レベルでリーダーシップを取るぐらいの気持ちにならないと。来年の春はWBC、その先にはロスでオリンピックがあります。世界と戦う日がもうすぐ来ます。野球は日本が1番成績がいい。だからこそ、NPBはルールでもリーダーシップを取るぐらいの気持ちでやってもらいたいなと僕は思っています」

死球を受けた後の大谷の態度は「革命」

 原氏はもう一歩踏み込んだ。

「メジャーはこのオールスター戦でロボット審判を導入すると聞いていますが、経験から言うと異論などないです。現場にいた我々が切に求めていたのが正しいジャッジですから。審判のミスジャッジを『それも野球じゃないか』って言う人もいるだろうけど、今はどんなスポーツもフェアネスが求められているんです。ラグビーにしてもサッカーにしてもそうでしょ。だから、公正さというものを追求するならば、(機械の判定に)結果を委ねることに何ら問題はないと、僕はそう思います」

 こんな“ルール”にも視線を注ぐ。

「この前、大谷君が100マイル(約161キロ)の死球を受けて、味方ベンチをなだめたというのがありましたよね。そのあと、彼は相手のベンチまで歩み寄って笑顔を見せたっていうね。“暗黙の了解”って言いますけど、打者がマウンドに突進するのだってその掟の中にあるんでしょうけど、事を荒立てたくないという彼の態度というものは、本当にすばらしかった。僕が現役の頃もありましたよ、伝統的なルールっていうのが。でもね、もういつまでもそんな枠組みにとらわれていたらダメなんです。もうそういう時代じゃない。でも、そう分かっていてもなかなかできないのが選手。だから、まるで何事もなかったかのような大谷君の泰然とした姿はまさに革命です」

 熱がこもった口調で話した原氏は立ち上がり、アメリカ国歌を聞き終えるとマウンドに向かう菅野を見つめた。初回に2点を失ったが、菅野は真骨頂の粘投で6試合ぶりに6回を投げ切り、ベンチに戻る際にスタンドの親族に向かって帽子を掲げた。

 4年越しの夢をかなえた甥っ子・菅野智之の雄姿に万感の思いで拍手を送った原辰徳氏は、ボルチモアの夜空を見上げ、車でマンハッタンへ向かった——。

○著者プロフィール
木崎英夫(きざき・ひでお)
1983年早大卒。1995年の野茂英雄の大リーグデビューから取材を続けるベースボールジャーナリスト。日刊スポーツや通信社の通信員を務め、2019年からFull-Countの現地記者として活動中。日本では電波媒体で11年間活動。その実績を生かし、2004年には年間最多安打記録を更新したイチローの偉業達成の瞬間を現地・シアトルからニッポン放送でライブ実況を果たす。元メジャーリーガーの大塚晶則氏の半生を描いた『約束のマウンド』(双葉社)では企画・構成を担当。東海大相模高野球部OB。

(木崎英夫 / Hideo Kizaki)

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