コインランドリーとノートが紡いだ“絆” 全国制覇から3年…仙台育英との再会

ベニーランドリー新大阪店のオーナー・中西あかねさん【写真:編集部】
ベニーランドリー新大阪店のオーナー・中西あかねさん【写真:編集部】

転勤族の多い土地柄「仙台出身で楽しみにしている人もいる」

 仙台育英(宮城)が4季ぶりの甲子園をかみしめている。2022年夏の全国覇者は、翌2023年夏に準優勝を果たした後、3季連続で“聖地”に届かなかった。2年ぶり31回目の出場にこぎ着けた第107回全国高校野球選手権大会の1回戦では、鳥取城北を5-0で下した。1冊のノートを挟んだ、宿舎ホテル周辺の地域の人たちとの交流も再開されている。

 JR新大阪駅にほど近いコインランドリー「ベニーランドリー 新大阪店」。2019年頃から、周辺に宿舎を構える仙台育英も利用するようになった。店内の机の上に「ベニー コミュニケーションノート」という“交換ノート”が置かれている。

 選手たちは大会期間中、その日の出来事などをノートに書き込んでいる。そのコメントに応じ、「応援しています!」、「いつも元気もらってます!」など、ランドリーを利用する地域住民からもメッセージが寄せられる。この交流が風物詩となっている。

 4季ぶりの甲子園出場となった今夏の書き込みもあり、叱咤激励のメッセージが並んでいる。このランドリーのオーナーの中西あかねさんは「いろんな学生さんがいらっしゃいますけれど、礼儀や挨拶が群を抜いてできる子たちですね。この地域の全員で仙台育英さんを応援しています」と力を込める。

 JR新大阪駅は東海道新幹線や山陽新幹線などが停車する「大阪の玄関口」だ。周辺に住む人たちには、地方から移動してきた“転勤族”が多く、こういったコミュニティが発達してきた。「いま大阪に住んでいる仙台出身の方々の中にも、このランドリーに来て、ノートを楽しみにしている人がいます。それに、地元・大阪の人たちもやっぱり温かい人が多いから、このノートがこうやって続いてきたのかな」と中西さんは感慨深げだ。

全国制覇から1年後、ベニーランドリーに届いた仙台育英のユニホーム【写真:編集部】
全国制覇から1年後、ベニーランドリーに届いた仙台育英のユニホーム【写真:編集部】

明かされる秘話「優勝の2日後でお忙しかったと思うのに…」

 中西さんはこんな“秘話”を明かしてくれた。仙台育英が東北勢初の全国制覇を成し遂げ、深紅の大優勝旗がついに白河の関を越えた2022年夏。中西さんがお祝いのメッセージを集めようと、ランドリーの大きな机に見開きの色紙を置くと、当時ランドリーがメディアで話題になっていたこともあり、一晩にして文字で埋め尽くされた。

 これを宅配便で仙台育英の校舎へ送ったところ、2日後に須江航監督から直々にお礼の電話があった。「宅配便の送り状に私の携帯番号を書いておいたら……。優勝の2日後だったので、すごくお忙しかったと思うのに、感謝をしてくださって。すごくうれしかったです」と中西さんは振り返る。

 話はそこで終わらなかった。その1年後の2023年夏、仙台育英は決勝で慶応(神奈川)に敗れ連覇を逃したが、直後に「感謝」と書かれた“特製ユニホームシャツ”がランドリーに届いた。「本当にうれしかったです」と中西さん。こうして仙台育英とランドリーを使う地域住民は強い“絆”で結ばれた。

 仙台育英は14日に予定されている今大会2回戦で、野々村直通監督が率いる開星(島根)と対戦する。中西さんは「最後まで悔いなく、思いっきりプレーしてもらえたら。体に気をつけて、頑張ってください。応援しています」とナインへ励ましのメッセージを送った。

(神吉孝昌 / Takamasa Kanki)

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