ダルビッシュがあえて選んだ1球 結果は3ラン被弾も…「失投って言いたくない」【マイ・メジャー・ノート】

痛恨の3ラン…「また1球」に悔やむ
パドレスのダルビッシュ有投手は27日(日本時間28日)の敵地・マリナーズ戦で、自身4連勝となる今季4勝目を目指したが、4回を投げ4安打4失点で降板。8月は5登板目で初黒星となる4敗目(3勝)を喫した。
敵地・シアトルでのデーゲームに今季初となる2登板連続の「中4日」での登板。序盤を1失点に抑え、リズムをつかみかけた4回に喫したエウへニオ・スアレスの3ランが致命傷になった。ナ・リーグ西地区のライバル、ドジャースを1ゲーム差で追うパ軍のシルト監督は継投策に切り替え、粘り強く投打で奮闘したものの1点差に詰め寄った9回に力尽き3-4で惜敗した。
試合後の囲みでダルビッシュは開口一番に言った。「また1球ってとこですね、本当に」。17日のドジャース戦で3球続けた直球をフリーマンに本塁打されているが、この日は強打のスアレスに浴びた2打席目の3ランを悔やんだ。
スアレスとの通算の対戦成績は36打数9安打15奪三振、打率.250、1本塁打。分があっただけにまさに痛恨の被弾となったが、うつむくことなくダルビッシュは言葉を足した。
「あのバッターよく知ってるのに。スライダーは打つんですけど、カットボールはそんなでもないっていうところだったけど。ロケーションが真ん中だったし、あそこはスイングするという所だったので。ちょっと悔やまれますね、あそこは」

“失投”という言葉は「あんまり言いたくない」
前夜、スアレスはスライダーを捉え今季41号となる3ランを放っている。この点も頭にあったはず。ダルビッシュは淡々と答えると、「失投か?」の声に敏感に反応した。「失投っていうのは……」。一度言葉を切り、そして喉元に殺到していた言葉を引っぱり出した。
「失投ってあんまり言いたくないので。あの真ん中の球も、過去2試合は結構バッターテイクしている球ではあるので。でも、きょうもこの前のドジャース戦もかなりカッターを使っている。(スアレス)本人も多分最初の打席でフォーシームヒットを打っているからカッターで来るかな?っていうところだと思うんですけど。でも、ちゃんとボール球か、ちゃんと外低めに投げていればまた(結果は)変わったと思う」
そもそも「失投」とはどんなものか――。平たく言えば「相手が待っている球種、コースにストライクを投げてしまうこと」であろう。食らった3ランは甘く入るカットボール。それも初球だった。野球評論家諸氏は言うであろう、「不用意なもったいない1球」と。だが、ダルビッシュは真ん中のその球を「失投」で括られることを拒んだ。その理由は、「配球の真実」と「投球の極意」が詰まった一投だったからである。
スアレスの1打席目は直球を捉えたヒット。次の打席の入り球には「同じ球は投げてこないだろう」「裏の裏をかいて投げてくるかも」の打者心理が働くことをダルビッシュは読んでいた。豊富な対戦データにも照らした。新鮮な経験値もある。直近2試合でカッターは鋭く切れ真ん中でも「バッターテイク(打ち取っている)」と自信を深めていた。マウンドで思考をコーディネートして決めた“初球”の配球は刺戟的(しげきてき)ですらある。

カットボールを選んだ理由、認めた唯一のミス
“有形”の失投に対して“無形”の確たる根拠があったからこそ、ダルビッシュには「失投」が歪(いびつ)に響いたのである。ただ、平明達意に紡いだダルビッシュに、もう少し、踏み込んでみたかった――。
1打席目の初球はカットボールだった。打者の頭に強く残るという初球に見逃した球種が、2打席目の入り球になったことはどう思っていたのか。
ダルビッシュはジェスチャーを交えて説明した。
「スアレスはこう(バットのヘッドが下がり気味にボールに)入って来るんで。こういう(横回転)のは全部ファウルになるっていう感じではあったので、僕は球種選択をしたんですけれども。でもやっぱりスアレスも頭がいいです。あれだけずっと長いキャリアがあるので、いろんなバッターへの攻め方とか考えてる」
オープンスタンスの構えから始動するスアレスのバット軌道も眼でつかんでいた。逆に、スアレスはダルビッシュのその日のカッターを描像済みだった。
90.9マイル(約146.3キロ)のカットボールを巡る野球知と技量の攻防に敗れたダルビッシュが、唯一認めたのはコントロールミス。
「もう練習しかないですね。山本君みたいなコントロールがあれば、また違うんですけど、そういうところは僕は長けてないので。そこはもっと練習していかないとっていうところだと思います」
「絶対も答えも決まりもない」配球で、無数に考えられる材料――経験で培った直観力、駆け引き、読み、独自データや映像などから抽出――を素に、ダルビッシュ有は“この1球”を選んだのである。
○著者プロフィール
木崎英夫(きざき・ひでお)
1983年早大卒。1995年の野茂英雄の大リーグデビューから取材を続けるベースボールジャーナリスト。日刊スポーツや通信社の通信員を務め、2019年からFull-Countの現地記者として活動中。日本では電波媒体で11年間活動。その実績を生かし、2004年には年間最多安打記録を更新したイチローの偉業達成の瞬間を現地・シアトルからニッポン放送でライブ実況を果たす。元メジャーリーガーの大塚晶則氏の半生を描いた『約束のマウンド』(双葉社)では企画・構成を担当。東海大相模高野球部OB。
(木崎英夫 / Hideo Kizaki)