山本由伸が積み重ねた“失敗の哲学” 異国で続ける挑戦…踏み出す1歩に深い理由

ドジャース・山本由伸【写真:荒川祐史】
ドジャース・山本由伸【写真:荒川祐史】

「こっち(米国)に来てから、1番の失敗だと感じたことはなんですか…?」

 ずらっと並んだ船を夕日が照らした頃、海岸沿いを進む歩がピタリと止まった。水面から反射する光が、黒いレンズをキラリと輝かせる。夕凪を感じた瞬間、ドジャースの山本由伸投手は、ぽつりと言った。「こっち(米国)に来てから、1番の失敗だと感じたことはなんですか……?」。さらりと前髪をかき分けると、右手でサングラスをそっと持ち上げた。眩しそうに目を細めると、無邪気に話を聞いて笑っていた。

「英語で何かを伝える時、1回目では上手く全部を伝えることはできませんよね。何回か話してみて『あ、こう言えば良いのか』だとか『こういう表現にすれば伝わるのか』という感じで、トライを続けるんです。確かに最初は『失敗』なのかもしれないけど、それは後々『成功』につながるチャレンジだと思うんですよね」

 8月で27歳になった。かつての同僚たちから、祝福のメッセージも届いた。可愛らしさも、クールさも兼ね備える右腕は、どんどん深みのある大人になっている。「目を見て、自分の気持ちを伝えるんです。そうすれば、そのチャレンジを相手も理解してくれる。英語の世界は、その連続です(笑)」。オリックス在籍時から、時間があればオンラインの英会話講座を受講していた。今もその姿は変わらない。「ちょっとでも話せたら、楽しいじゃないですか?」。

 メジャー挑戦2年目の今季は開幕からチームで唯一、先発ローテーションを守っている。ここまで25試合に登板して11勝8敗で防御率は2.90。離脱することなく“計算できる投手”としてドジャースを支えている。

「失敗を積み重ねないと、成功には近づけないと思うんです。野球もそうです。もちろん、投げる日は毎試合で勝ちたいし、全員を抑えたい。でも、打たれる日もあります。そこでまた相手を研究したり、自分で細かい修正をしたりして、次の登板に向かいます。考え過ぎも良くないので、できるだけ“リセット”も心掛けて。心をまっさらな状態にしてマウンドに向かうようにしています」

 綺麗なオレンジに照らされた影が、少しずつ長くなる。「『今日は良い1日だった』って、毎日思えるようにしないと。挑戦して失敗して、また新しいことを覚えて……。たまに少しだけ振り返ったりして(笑)。そうやって毎日を過ごしてますよ」。靴紐を結び直して、また立ち上がった。

 遠征先でも「LA」の紺色帽子を見かける。にこやかに手を振ると「あの子、僕のことわかりますかね……?」と笑う。少年が駆けつけ、記念撮影に応じると「もっともっと頑張らないと、ですね」。太陽が沈んだ頃、じわりと液晶に浮かんだ2ショットを見て、少年家族は胸を弾ませた。まだまだ野望を描くから、夢を与えられる存在なのである。

(真柴健 / Ken Mashiba)

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