日本一へ…横浜の新たな挑戦 村田監督が明かした“最大の敵”「今年は違う野球をやる」

浅野戦に臨んだ横浜ナインと村田浩明監督(右から2人目)【写真:大利実】
浅野戦に臨んだ横浜ナインと村田浩明監督(右から2人目)【写真:大利実】

横浜が掲げた新スローガン『SENSE OF SPEED』

 6日に開幕した高校野球秋季神奈川大会。センバツ優勝、夏の甲子園ベスト8を経験した主力が残る横浜は10-0の5回コールド勝ちで浅野を下し、3回戦に駒を進めた。新主将・小野舜友を1番打者に起用するオーダーで8安打10得点。投手陣は1年生左腕・小林鉄三郎、2年生右腕・林田滉生による無安打継投で快勝した。

 タイブレークにもつれ込んだ県岐阜商との激闘が8月19日。翌日、横浜市に戻り、2日間のオフを挟み、23日の午後から新チームがスタートした。

 村田浩明監督が掲げた新スローガンは『SENSE OF SPEED』。目に見えるスピードだけでなく、思考力や判断力、行動力のスピードを上げていく、という意味を込めたものだ。

 新主将に選ばれたのは、一塁を守る小野。春の段階から、村田浩明監督は「小野の熱量がすごい。新チームは小野がキャプテンになると思います」と話していた。寮では、3年生の主将・阿部葉太と同部屋。阿部の振る舞いから主将像を学び、自らも主将をやるつもりで取り組んでいた。

「阿部さんに『キャプテンに決まりました』と伝えたら、『頼んだぞ』と言われて、阿部さんが着けていたキャプテンマークをいただきました」

 練習試合を1試合挟んだあと、8月27日から31日まで北海道紋別市で毎年恒例の合宿を行った。一昨年まではAチームのみの合宿だったが、昨年から「チームの一体感を高めるため」(村田監督)と部員全員が参加し、24時間をともに過ごすようになった。

 気温20度前後の過ごしやすい気候の中で、実戦練習を中心としたメニューで連携プレーに力を入れた。30日には地元の紋別高と練習試合を行い、13-4で勝利。試合後、村田浩明監督と渡邉陽介コーチは、飛行機で那覇空港に移動し、阿部葉太、奥村頼人、為永皓、奥村凌大が選ばれたU-18の応援に駆け付けた。

浅野戦に登板した横浜・小林鉄三郎【写真:大利実】
浅野戦に登板した横浜・小林鉄三郎【写真:大利実】

村田監督が語る新チームの投手陣

 浅野との秋季大会初戦。先発に起用されたのは1年生の小林だ。中本牧シニア時代に全国制覇を成し遂げた実績を持ち、夏の甲子園でもベンチ入りを果たしていた。すでに140キロを超えるストレートを投げ、右打者の外に落ちるチェンジアップを得意にする。

 小林が4回まで投げたあとは、速球派の林田が登板。旧チームでは主に内野を守っていたが、新チームでは投手としての練習にも力を入れる。3兄弟の末っ子で、次男の夢大は西部ガスで活躍する本格派右腕。昨年、U-23に選ばれている。

 新チームの投手事情を、村田監督はどのように見ているのか。

「小林に関しては、甲子園でも投げさせたかったんですけど、打線がなかなか振るわず、酷な状況で出すのもちょっとしんどいので。本人は投げる気満々だったんですけどね。織田はすごく計算できるので、ほかのピッチャーの枚数を作っていきたい。林田(の投球)も良かったですね」

 コールドにならなければ、6回から林田が三塁に回り、背番号16の右腕・高浦洋祐が登板予定だったという。

 背番号1を着けるのは織田翔希。夏の甲子園でもその力を存分に発揮したが、ひとりだけでは勝ち抜けない。奥村頼人が肉離れの影響で、投手としての調整が遅れたことが最後まで響いた。

 さらに言えば、甲子園入り後、ベンチ入りした投手の中にコンディション不良の選手が複数出たことで、織田に頼らざるをえない状況になった。アクシデントを考えても、信頼できる投手は多ければ多いほどいい。

浅野戦に勝利した横浜ナイン【写真:大利実】
浅野戦に勝利した横浜ナイン【写真:大利実】

指揮官が感じた成長「今までで一番“気”がある」

 攻撃陣は、甲子園で5番を打っていた小野が1番に入り、小野、千島大翼、池田聖摩、川上慧、田島陽翔の上位陣となった。タイプ的に見れば、小野の1番は意外な感じがするが、ここに村田監督の新チームにかける想いがある。

「小野は集中力が違います。相手からしたら、1番に小野がいるのはイヤだと思います」

 1回裏の攻撃で小野が初球にセーフティバントを試みた。三塁手が三遊間寄りに守っていたのを見て、自らの判断で敢行した。結果はアウトだったが、村田監督はこの判断を褒めた。

「このチーム、良くなっていくなと思いました。今までならやってないです。3年生のチームは結構大人びていたというか。今年は泥臭く、足を使っていくなど、新しい横浜の野球ができるかなと思っています」

 2番に置いた千島は、チームトップクラスのスピードを持ち、背番号17の芦田大地も走れる足がある。『SENSE OF SPEED』を体現できる可能性を持った選手が揃う。

「新チームは、今までの横浜高校の中で、一番“気”があるというか、熱量が高い。この子たちだったらやれるという手応えを、例年はチームを作っていく中で感じることが多いんですけど、スタートの段階から感じています。この代が楽しみだなと、心の底から思っています。僕自身、毎日すごくやりがいがあって、楽しいですね」

 現2年生が入学したとき、村田監督は「1年生の気持ちの強さがすごい。こっちが止めないと、いつまでも練習をしている」と嬉しそうに話していたことがあった。今後、技術やフィジカル面の強化は必要になっていくが、気持ちの部分では先輩たちに負けていない。

横浜の新主将・小野舜友【写真:大利実】
横浜の新主将・小野舜友【写真:大利実】

小野主将が強調した「自分たちの代」

 これからの1年、いまの選手たちが偉大な先輩たちと比べられるのは間違いないだろう。

「阿部葉太の世代と比べて、どんな違いがありますか」という質問を用意していたら、問う前に村田監督が印象深い言葉を口にした。

「今年は小野の代。最大の敵は、阿部の代になる。『阿部さんの代は……』と必ず言われるだろうけど、お前らはお前ら。阿部がどうたらこうたらというのは、指導者も禁止。彼らには『今年は違う野球をやるよ』と言っています」

 新主将の小野も「自分たちの代」であることを強調した。

「行くとこ行くとこで、『阿部さんが……』とか言われたりするんですけど、良いところは受け継いでいきながら、変えていかなければいけないところはどんどん変えていきたい。チームのトップに立っている自分が、姿勢や声で引っ張ることで、この主将マークが自分色に染まっていくのかなと思います」

 先輩と比較されることは十分に分かっている。だからこそ、自分たちの色を積極的に出していく。

 U-18に関しては、練習が終わったあとにライブ中継を観ているそうで、「横浜でやっている野球は間違いではない。監督さんのもとでやっていけば、先輩たちのような選手になれると再確認できました」と小野は語る。

 浅野戦のあと、高山大輝部長と小山内一平コーチが羽田空港に向かい、開催地の那覇に飛んだ。「雄姿を目に焼き付けてきてほしい。今後も、U-18に選ばれるような選手を育てていこう」という村田監督からのメッセージを受けてのものだ。

 神奈川と沖縄で、横浜の野球を存分に見せつけ、頂点を掴みにいく。

(大利実 / Minoru Ohtoshi)

○著者プロフィール
大利実(おおとし・みのる)1977年生まれ、神奈川県出身。大学卒業後、スポーツライターの事務所を経て、フリーライターに。中学・高校野球を中心にしたアマチュア野球の取材が主。著書に『高校野球継投論』(竹書房)、企画・構成に『コントロールの極意』(吉見一起著/竹書房)、『導く力-自走する集団作り-』(高松商・長尾健司著/竹書房)など。近著に『高校野球激戦区 神奈川から頂点狙う監督たち』(カンゼン)がある。

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