横浜の村田監督が交わした約束「阿部葉太世代と比較しない」 新チームに感じた“成長”

県大会で優勝した横浜ナイン【写真:大利実】
県大会で優勝した横浜ナイン【写真:大利実】

横浜が神奈川1位で関東大会へ、夏を経験した選手が躍動

 18日から山梨県で開催される高校野球秋季関東大会。大会連覇を狙うのが、神奈川1位として出場する横浜だ。県大会6試合すべて5点差以上のスコアで、地力の高さを見せた。夏を経験した新主将の小野舜友、エース番号を背負う織田翔希、遊撃手の池田聖摩、中軸の江坂佳史、川上慧を軸に、千島大翼、植村直太朗、小林鉄三郎らが躍動した。

 新チームが始まるとき、村田浩明監督はひとつの約束を交わした。

「阿部(葉太)の代との比較はしない。指導者間でも、それは禁止。今年は小野の代。最大の敵は阿部の代になる。今年は今年で違う野球をやろう」

 秋の県大会の取材中、記者から問われない限りは、「阿部世代との比較」を自ら語ることはなかった。

 小野が右袖に着ける主将マークは、阿部から「頼んだぞ」との言葉とともに直接もらったものだ。今夏まで、寮では同部屋で、「夏の平塚学園戦のように大事なところで打ってくれたり、自分が打てないときには『下を向くなよ』と声をかけてくれたり、本当に頼もしい先輩」と尊敬の念を抱く。

 村田監督は「今までの横浜高校の中で、一番“気”があるというか、熱量が高い」「泥臭く、足を使っていくなど、新しい横浜の野球ができる」と評価する。

 新チーム結成時に掲げたスローガンは『SENSE OF SPEED』。野球の面でも思考の面でもスピードを追求していく。

 さらに県大会を勝ち抜く中で加わったのが『真時代』というキーワードだ。「新」ではなく「真」。本物の強さを求めていく。準々決勝の平塚学園戦の前には、村田監督自ら帽子のツバにこの言葉を書き込んだ。チームが変わるごとに、その年に目指すべき言葉を記すようにしている。

横浜・織田翔希【写真:大利実】
横浜・織田翔希【写真:大利実】

ベストなフォームを模索するエースの織田翔希

 奥村頼人が着けた背番号1を引き継いだのが、最速152キロ右腕の織田翔希だ。秋の県大会初登板は、3回戦の横浜創学館戦。6回5安打2失点とまとめたが、夏から明らかに変わっていたところがあった。大きく振りかぶるワインドアップ、ノーワインドアップ、さらにセットポジションと、走者がいない状況であっても、投げ方を変えていた。

 夏の大会では、左足をプレートの一塁側にずらしてからモーションを起こしていたが、甲子園後の練習試合で審判から注意を受けたという。

「自分に合う投げ方を探しているところです。何も考えなくても、足の裏に自然に体重が乗るフォームを求めていて、まだ見つかっていない状況です」

 大会終盤は、セットポジションからの投球に落ち着いていたが、まだ試行錯誤の段階である。秋の県大会では25回0/3を投げて18安打8失点と、決して圧倒的なピッチングだったわけではない。本人もそれは自覚している。

 7回途中、6-5の場面で継続試合となった準決勝の東海大相模戦は、先発するも試合中に爪が割れるアクシンデトがあり、6回途中4失点で降板。翌日は9回1イニングを締めた。

「自分としては納得いっていないんですけど、まずはチームが勝つことが最優先。日々の取り組みの面で、1つ、2つ、足りない部分があるのかなと思っています。マウンドでの立ち居振る舞いを含めて、まだまだ甘さというか子どもというか。頼人さんもそうですけど、背番号1を着けた先輩方は、『本当にさすがだな』というふうに見えていたんですけど、客観的に見ても自分はまだまだ情けない部分がたくさんあります」

 村田監督は「1年間ずっと投げているので、疲れているのもある」とコンディション面に言及したうえで、「横浜高校の背番号1を着けて投げていることは、彼にとって大きく成長できるチャンス。それをモノにしてほしい」と期待を寄せる。

奥村頼人が織田に送ったエール「翔希の『1番』を」

 秋の県大会中、スタンドでは引退した3年生の姿が毎試合のように見られた。ムードメーカーの片山大輔を中心に、笑顔と大きな声で後輩の背中を押した。3年生にとって、小野世代の野球はどのように見えているのか。「自分たちよりも強いですよ」と話してくれたのが、奥村頼人だ。

「自分たちの代よりも、平均値が高いというか、レギュラーと控え選手の差が少ない。それに足が速い選手が多いので、打つだけではない野球ができる感じがします」

 決勝の法政二戦では、8盗塁で相手バッテリーを揺さぶった。池田や千島を筆頭に、走れる選手が揃う。

「小野のキャプテンもこのチームにおいては適任だと思います。仲のいい学年なので、その中で小野のように大人びた選手がキャプテンをやることで、チームはまとまると思います。グラウンドに練習に行っても、ものすごい活気があって、ギュッとまとまっているのを感じます。自分たちの代は個性が強すぎたので、阿部葉太のようなスターじゃないと、まとめられなかったと思います」

 新たに背番号1を着ける織田には「あんまり焦り過ぎずにやってほしいです。壁に当たるときもあると思うので。自分もそうだったんですけど、先輩の背中を追い過ぎると自分を見失ってしまう。はじめはそれでもいいと思うんですけど、どこかで自分で気付いて、織田翔希なりの『1番』を目指してほしい。来年夏に向けて、翔希の『1番』を確立できれば、自然と強いチームになっていくと思います」とエールを送った。

県大会で優勝した横浜ナイン【写真:大利実】
県大会で優勝した横浜ナイン【写真:大利実】

村田監督は新チームに手応え「今年のほうが能力は高い」

 継続試合後、一時は同点に追いつかれた東海大相模戦。2日にわたる戦いを終えたあと、村田監督は「(東海大相模は)やるべきことを徹底してくる。嫌なチームです。練習の大事さを改めて感じました」と口にした。

 大会中、「甲子園が終わってから、しっかりとした練習がなかなかできていない」と何度か口にしていた。秋は基本的に週1回の試合だが、コンディションを考えると、追い込んだ練習は難しい。目には見えない夏の疲労もある。練習量と調整のバランスを考えながら、1試合ずつ勝ち上がってきた。

 さらに、激しいチーム内競争もあった。

「甲子園のあとすぐに新チームだったので、競争する期間が短かった。その分、秋の大会中、自分の結果にどうしてもこだわってしまうところがあって、相手ではなく、仲間と戦ってしまっていた。それが力みにつながることもあり、監督としても難しいところでした。でも、そこに気付いて修正できたところもあったので、選手たちに成長させてもらった大会になりました」

 東海大相模戦の前には、「バッティングの7つのポイント」を挙げて、結果ではなく、やるべきことに目を向けさせた。トップの位置、タイミングの取り方、スタンス、ミートポイントなど、どれかひとつ、自分が大事にすべきことを取り入れて、そこに意識を向けるよう助言した。

 センバツ連覇に向けて、次のステージに進む権利を得た。

「本当によく頑張ってくれたので、1回休んで、しっかりとリセットしてから、関東に向けて一歩踏み出していきたいと思います」

 あえての質問となるが、現時点で「阿部世代」と比較しての強みは――。

「今年のほうが能力は高い。バッティング練習を見ていても、打球が違います。ピッチャーの枚数も多い。足りないところは、勝負強さや野球感。でもそこはこれから、戦いながら、です」

『真時代』を求めて、強豪集う関東大会に挑む。初戦は10月18日、横浜のOBでもある渡辺賢監督が指揮を執る高崎商大付と戦う。

(大利実 / Minoru Ohtoshi)

○著者プロフィール
大利実(おおとし・みのる)1977年生まれ、神奈川県出身。大学卒業後、スポーツライターの事務所を経て、フリーライターに。中学・高校野球を中心にしたアマチュア野球の取材が主。著書に『高校野球継投論』(竹書房)、企画・構成に『コントロールの極意』(吉見一起著/竹書房)、『導く力-自走する集団作り-』(高松商・長尾健司著/竹書房)など。近著に『高校野球激戦区 神奈川から頂点狙う監督たち』(カンゼン)がある。

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