肉離れと思いきや…まさかの“命の危機” 元謙太を救った的確な判断、練習再開で「感謝」

オリックス・元謙太【写真:小林靖】
オリックス・元謙太【写真:小林靖】

今季は7月末までキャリアハイの31試合に出場も…

 九死に一生を得た。オリックスの元謙太外野手が、医師の機転で発見された「右鎖骨下静脈血栓症」が快方に向かい、早期支配下復帰を目指し練習を再開した。

「もう今年はバットもボールも握れないと思っていたのですが、(病気から)解放された感はあります。11月からは普通に自分のやりたいことができるので、来年のスタートは完璧にできます」。練習を再開して3日目の10月13日、元が声を弾ませた。

 元は、中京高から2020年ドラフト2位でオリックスに入団。2年夏の甲子園では準々決勝の作新学院戦で、逆転満塁本塁打を放ちベスト4進出に貢献。1、2年目にウエスタン・リーグで100試合以上の出場をして経験を積み、5年目の今季はチームの先輩、佐野皓大外野手と、現在は中日でプレーする後藤駿太外野手のもとで過ごし自信のある守備力を強化。松井佑介1軍外野守備走塁コーチからも「肩がいいですし、送球の安定感もあります。球際にも強く大事なところでの守りを任すことができます」と高い評価を受け、自己最多の31試合に出場していた。

 体の異変に気付いたのは8月中旬。右手のしびれと右鎖骨付近の大胸筋に違和感があった。7月29日の選手登録抹消後は、8月3日からのウエスタン・リーグ8試合で28打数10安打、1本塁打、8打点、打率.357。課題とされた打撃は好調で、再昇格に向け順調に進んでいた。

 しかし、8月19日のハヤテ戦の第2打席で遊直を放った瞬間、ピーンと電気のようなものが大胸筋から首に走ったという。大事を取って2打席でベンチに下がったが、当初は肉離れだと思い込んでいた。

 事態が急変したのは、8月下旬のチームドクター受診から。MRI(磁気共鳴画像法)での検査で軽度の肉離れとわかったが、画像をみた医師は「少し黒い部分で血管が詰まっている可能性も考えられる。念のためにCT(コンピューター断層撮影)を撮りましょう」と再検査を勧めてくれた。MRIでは血管の状態まで判別することはできず、機器の誤差範囲とも考えられたが、この判断が元の命を救ってくれることになった。

 CTの結果は「血栓症の疑い」。血液中にできた血の塊が血管をふさぐ病気で、血栓が移動する場所によっては命に関わるという。応急措置後、医師と看護師が同乗した救急車で神戸市内の病院に緊急搬送され、「右鎖骨下静脈血栓症」と診断された。神戸の医師が「(専門外の)整形外科の先生がよく見つけてくれた」と驚くほど、チームドクターの判断が良かったそうだ。

 血栓ができた原因によっては手術の可能性もあったが、血液をサラサラにする投薬治療で1か月余り。10月9日の再診では、3か月はかかるとみられた血栓も小さくなって血流も改善し、練習再開の許可が出た。休日明けの11日からはアップの全体練習に参加し、キャッチボールやティー打撃で汗を流した。

「軽い肉離れだと思ってそのまま野球を続けていれば、死ぬ可能性もありました。見つけてくださった先生には感謝しかありません」と元。1週間近く入院し、独り暮らしでは緊急時に対処できないため合宿所で寝泊まりをしていた。「食事面でも助かりますし、球団にも感謝です。手術が必要かもしれないとなった時には、九里(亜蓮)さんがカープ時代の選手を紹介してくださいました。周りの選手の方々にも気を遣っていただき、ありがたかったですね」。佐野からは、毎日のようにLINEで連絡がきたという。

 長期治療が必要との当初の判断や、治療に専念させてあげようという球団の配慮もあったのだろう、10月2日に戦力外通告を受けたが、医師も驚く奇跡的な回復で、11月中には通常の練習ができる見込み。「福良さん(淳一ゼネラルマネジャー)からは『今年はチャンスをつかみかけていた年だった』という評価もいただきました。来春のキャンプから1軍を目指せるようにオフから頑張ります」。同期で仲の良い山下舜平大投手や来田涼斗外野手らに追いつくため、救ってもらった命は無駄にはしない。

〇北野正樹(きたの・まさき)大阪府生まれ。読売新聞大阪本社を経て、2020年12月からフリーランス。プロ野球・南海、阪急、巨人、阪神のほか、アマチュア野球やバレーボールなどを担当。1989年シーズンから発足したオリックスの担当記者一期生。関西運動記者クラブ会友。2023年12月からFull-Count編集部の「オリックス取材班」へ。

(北野正樹 / Masaki Kitano)

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