阪神・森下翔太はなぜ勝負強いのか サヨナラ弾だけじゃない…専門家が見た“想定力”

3-3の同点で迎えた延長10回、初球のスライダーを振り抜いた
■阪神 5ー3 DeNA(16日・甲子園)
阪神・森下翔太外野手はなぜ、短期決戦に強いのか──。16日に本拠地で行われたDeNAとのクライマックスシリーズ(CS)ファイナルステージ第2戦に「3番・右翼」で出場し、延長10回のサヨナラ2ランを含め4打数3安打2打点。2試合合計で打率.741(7打数5安打)の大当たりだ。チームも2連勝で、アドバンテージを含めて3勝0敗とし、日本シリーズ進出へ王手をかけた。
本当に勝負強い。3-3の同点で迎えた延長10回、無死一塁で打席に立った森下は、DeNAの救援右腕・佐々木千隼投手が初球に投じた真ん中外寄りの119キロのスライダーを迷わず振り抜いた。打球はギリギリで左翼フェンスを越え、その瞬間、4万2647人の観客で埋まったスタンドは興奮のるつぼと化した。
プロ3年目の森下はルーキーイヤーの2023年にも、広島とのCSファイナルステージ第1戦で値千金の同点ソロを放ち、第3戦でも押し出し四球を選び存在感を発揮した。日本シリーズでは打率.267(30打数8安打)、チーム最多でシリーズ新人記録の7打点をマークし、優秀選手賞に輝いた。昨年のCSファーストステージでは、チームは0勝2敗で敗退するも、森下自身は2試合で打率.625(8打数5安打)、1本塁打2打点の猛打を振るった。
昨年11月のWBSCプレミア12でも日本代表「侍ジャパン」の4番を務め、9試合で打率.357(28打数10安打)、1本塁打9打点と活躍している。
短期決戦に強い条件とは何だろう。現役時代に阪神、横浜(現DeNA)など4球団で21年間捕手として活躍した野球評論家・野口寿浩氏は「ポテンシャルが高いのは大前提として、集中力が非常に高いことだと思います」と指摘。その上で、周到な準備と冷静さも背景にあると付け加える。
「たとえば、サヨナラ本塁打を放った相手の佐々木は、対右打者となると圧倒的にスライダーが多くなる投手です。初球からフルスイングできることが森下の魅力ですが、単なる勢いではなく、データや最近の佐々木の傾向を頭に入れて打席に入っているのは間違いない。興奮する場面で冷静さを保っていることもうかがえます」と分析した。
相手バッテリーが恐れる「いい場面をものにする嗅覚」
森下の集中力、準備、冷静な判断力が生かされるのは、打撃だけではない。6回先頭で左前打を放ち出塁すると、続く佐藤輝明内野手の3球目、DeNA・中川虎大投手のフォークがワンバウンドになると、すかさスタートを切り二塁を奪った(記録は暴投)。山本祐大捕手はボールを体に当て、前に弾いていたが、森下はわずかな隙を見逃さず、強肩の山本の送球もかいくぐった。
野口氏は「走塁でも集中力が高いですね。ああいう場面では、常に投球がワンバウンドになり、二塁へ進むことを想定していないと、1歩目が出てきません。塁上できちんと準備ができていたということでしょう」と称賛した。
仮に野口氏が捕手として森下と対戦するなら、どう攻略しようとするだろうか。そう聞くと、「難しいですね。これが日本シリーズの第1戦であれば、1試合を捨てる覚悟で全球インコースを攻め、内角を強く意識させるという手法を取ったかもしれません。しかし、阪神に1勝のアドバンテージを握られている状況でのCSでは、リスクが高すぎる。結局、もう1度レギュラーシーズンのデータを洗い直して対策を練るしかないかもしれません」と苦笑した。
「前日(15日)の第1戦でも6回の先制タイムリーが決勝打になったように、いい場面をものにする嗅覚が、森下の恐ろしいところです」と評する野口氏。“和製ミスター・オクトーバー”の快進撃は止まりそうにない。
(宮脇広久 / Hirohisa Miyawaki)