阪神日本S進出の“陰のMVP”は? OBが称えたワンプレー「シリーズ全体の流れを決めた」

阪神・藤川球児監督【写真:小林靖】
阪神・藤川球児監督【写真:小林靖】

第1戦で両チーム無得点の6回、先制タイムリーの呼び水に

 阪神は17日、本拠地で行われたDeNAとのCS(クライマックスシリーズ)第3戦に4-0で勝ち、3連勝で2年ぶりの日本シリーズ進出を決めた。MVPには第2戦の延長10回に放ったサヨナラ2ランを含め、3試合で打率.667(9打数6安打)の猛打を振るった森下翔太外野手が選出された。一方、OBが選んだ“陰のMVP”は──。

「大前提として、MVPに森下が選ばれたのは当然だと思います。第2戦のサヨナラ2ランだけでなく、第1戦でも6回に放った先制タイムリーが決勝打になり、無類の勝負強さを発揮しました」。こう評したのは、現役時代に阪神や横浜(現DeNA)など、4球団で捕手として活躍した野球評論家・野口寿浩氏だ。

 第3戦もしかり。森下は相手の先発アンソニー・ケイ投手をレギュラーシーズン18打数ノーヒットと大の苦手にしていたが、初回1死一塁の第1打席で死球を受け出塁。続く佐藤輝明内野手の先制3ランにつなげた。3回1死一塁の第2打席でもケイから、1球もストライクが来ないまま四球を選び、大山悠輔内野手の適時二塁打の呼び水となった。ケイがシーズン中には1本もヒットを打たれなかった森下を、第1戦と第2戦の活躍を見て異常に警戒し、“傷口”を広げたのは明らかだった。

 森下の躍動が目立ったシリーズだが、野口氏に“陰のMVP”を聞くと、「近本(光司)外野手」でしょう」と即答。「第1戦の三盗成功が、このCS全体の流れを決めたような気がします」と強調した。

 近本は第1戦で両チーム無得点で迎えた6回、それまで完璧に抑えられていたDeNA先発・東克樹投手に対し、先頭で遊撃内野安打を放ち出塁。中野拓夢内野手の送りバントで二進すると、続く森下の初球に三盗に成功した。これで楽になった森下は3球目を中前に運び、チームに待望の先制点をもたらしたのだった。

「固定されたメンバー、固定された戦術で戦い抜けたことが強み」

 レギュラーシーズンで2位のDeNAに13ゲームの大差をつけて優勝した阪神だが、シーズン最終戦からCS第1戦まで、中12日の間隔が空き、試合勘の喪失が一抹の不安だった。野口氏は「長いインターバルは、投手よりも打者に影響を与えます。実際、第1戦では阪神打線になかなか火がつきませんでしたが、機動力を絡めて先制点を取れたことで、シーズン中の戦い方を思い出すことができたと思います」と振り返る。

 日本シリーズ進出に王手をかけて迎えた第3戦でも、近本は初回先頭でケイから左前打を放ち出塁。森下の死球、佐藤輝の先制3ランへとつながった。「初回先頭の近本にポンとヒットが出たことによって、阪神は勢いづき、崖っぷちだったDeNAはなおさら精神的に追い込まれました」と野口氏は解説する。

 阪神打線はシーズン中も、4年連続6回目の盗塁王に輝いた1番・近本が出塁、今季両リーグを通じ断トツの44犠打をマークした2番・中野が送り、森下、佐藤輝、大山の強力クリーンアップで得点するのが“黄金パターン”だった。

 守っても先発投手陣が安定していた上、試合終盤を及川雅貴投手(シーズン防御率0.87)、石井大智投手(同0.17)、岩崎優投手(同2.10)の“勝利の方程式”で締めた。「基本的に固定されたメンバー、固定された戦術でシーズンを戦い抜けたところが、阪神の最大の強みだったと思います」と野口氏は強調する。

 特に石井はNPB新記録の50試合連続無失点で今季を終え、このCSも全3試合に登板し相手に得点を許さなかった。野口氏は「及川、石井、岩崎の安定感は、かつてのJFKに匹敵すると思います」と称賛する。結局CSも土つかずで突破した阪神。2年ぶり3度目の日本一へ、今のところ死角は見当たらない。

(宮脇広久 / Hirohisa Miyawaki)

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