佐々木朗希の「ストレスを減らしてあげたい」 元同僚が見た山本由伸の“気遣い”

現地で取材する鈴木優氏がドジャースの1年を振り返る
2025年シーズンのドジャースは、パ・リーグ出身の日本人選手3人が主役級の活躍を見せた。
MVP最有力の大谷翔平投手、エース・山本由伸投手、そして新加入のトッププロスペクト・佐々木朗希投手。3人が同じユニホームを着て戦ったシーズンは、まさに日本野球の誇りを示す1年となった。ワールドシリーズ直前のいま、そんな3人の2025年シーズンを、MLBの現場で取材する私、鈴木優が振り返っていく。
大谷選手はシーズン中盤、2回目の右肘のトミー・ジョン手術を経て投手として復帰。チームとしては「打者・大谷翔平」を失うことができないということもあり、マイナーでのリハビリ登板ではなく、メジャーの試合でイニング数を調整して登板を重ねた。
手術前同様の100マイル(約160.9キロ)を超えるストレートを投げ込みながら、新たな武器としてツーシーム、縦に鋭く落ちるスライダーなどを加え、進化して帰ってきた印象だ。
昨年は打者の大谷選手を見てきたが、いつも表情を変えずに戦っていた。その姿に比べて、投手の大谷選手は勝利を狙い、より感情を出しているように見える。久しぶりに投手として出場していることを楽しみながらプレーしているように感じた。
打者としても昨年同様ホームラン王争いを最後まで演じ、タイトルは惜しくも逃したが、自己最多を更新する55本塁打をマーク。盗塁数は59から20に減ったものの、四球の数を増やし、出塁率は昨年超え。今シーズンは1番に定着したこともあり、本人のコメントからも「後ろにつなぐ」という意識が強く見受けられた。
そして、ポストシーズンでは投手の制限がなくなり、フィリーズとの地区シリーズ初戦で6回9奪三振3失点。そしてブルワーズとのリーグ優勝決定シリーズ第4戦では、投げては7回途中10奪三振無失点、打っては3本塁打と完全復活を印象づけた。開幕から二刀流としてプレーすることが期待される来季は、シーズンでどのような成績を残すのか。ケガをせず、例年のようなパフォーマンスを発揮すれば、MVPは大谷選手以外いないだろう。
安定感抜群でキャリアハイを更新…チームで唯一ローテーションを守り切った
メジャー2年目の山本投手は、自己最多12勝、ナ・リーグ2位の防御率2.49と抜群の安定感を誇った。シーズン中盤に良い悪いを繰り返す時期もあったが、9月の4登板で防御率0.67と、終盤はリーグで一番と言い切れるピッチングを披露。チームで唯一ローテーションを守り抜き、ロバーツ監督からはエースと公言されるなど信頼を勝ち取った。
配球面でも、昨年は基本的に出されたサインのみで投げることが多かったが、今季は自分の意思で投げる場面もあり、自信と余裕を身に着けたようだ。
ポストシーズンでは、ブルワーズとのリーグ優勝決定シリーズ第2戦で9回3安打1失点、自身MLB初完投を達成。3年目を迎える来季もエースとして活躍し、同リーグに在籍する“怪物”ポール・スキーンズ投手ら好投手を抑え、タイトルを手にしてほしい。
ちなみに、山本投手はチームメイトとの関係づくりも本当に上手。私が山本投手と会話しているときも、近くを通ったほかの選手が山本投手にあいさつをしたり、ちょっかいを出したりと、チームメイトから愛されている様子が見られた。
マイナー契約からリリーフ挑戦と経験の1年に
メジャー1年目の佐々木投手は、マイナー契約でキャンプイン。しっかりアピールに成功し、開幕とともにメジャー契約。東京での開幕シリーズの先発を勝ち取った。その後、7度目の先発登板となった5月3日に初勝利もマーク。しかし、右肩の負傷により、5月9日の登板を最後に離脱し、リハビリに長い時間を費やした。
そして、シーズン終盤にリリーフとして復帰。その適応力が光った。メジャーでわずか2試合の中継ぎ登板を経て、ポストシーズンではまさかのクローザー起用。100マイル(約160.9キロ)を超えるストレートとフォークのコンビネーションで強打者たちを次々にねじ伏せ、チームのブルペンを救った。
先発・リリーフの両方を経験した私から見ても、シーズン途中からリリーフ調整へ変更することは難しいと感じる。短いイニングに全力を注ぐリリーフは、たった数球で勝敗を左右するため、試合の流れを読むことや高い集中力が必要だ。佐々木投手にはそのスイッチを入れるセンスがあった。この経験は、今後先発として登板するうえでも大きな武器になるだろう。
「野球以外のストレスを減らしてあげたい」春先に垣間見えた3人の関係性
今シーズンも取材を通して強く感じたのは、3人の仲間意識とプロ意識だ。
キャンプの初めの頃、佐々木投手がメジャーの環境に戸惑う姿を見て、大谷選手と山本投手が常に声をかけ、気にかけているのがわかった。
山本投手は「(佐々木投手の)野球以外のストレスを減らしてあげたい」と話し、「自分も知らない間に1年目は(周りに)気を遣ってしまっていた」と自分の経験も踏まえながらサポートした。そのサポートの効果もあり、佐々木投手は順調に調整し開幕ローテーションを勝ち取ることができたのだと思う。
一方、シーズンが始まると、ロッカールームで会話する場面はもちろんあるものの、一人ひとりがプロとして自分のやるべきことに集中していた。常に日本人同士で3選手が固まることもなく、あくまでチームメイトとして接していた。
メジャーの舞台でプレーするほどの選手は、やはり自分の役割を理解し、それをしっかりこなすからこそ、安定してこれほどの成績を残せるのだとあらためて実感させられた瞬間だった。
二刀流・大谷選手はチームリーダーとして、山本投手は安定感抜群のエース、佐々木投手はトッププロスペクトの新人として。それぞれが違う形でチームを支えたシーズン。2年連続世界一を狙うドジャースで、3人は主力としてワールドシリーズに挑むこととなった。
そして来季、この3人がローテーションに並ぶ日が訪れたら、それはドジャースにとっても、MLBにとっても歴史的瞬間となるだろう。また、来年のシーズン開幕前にはWBCも開催される。代表選手に3人の名前はあるのか。アメリカでも大きな注目が集まっている。
(「パ・リーグ インサイト」鈴木優)
(記事提供:パ・リーグ インサイト)