ソフトバンクを支えた“準備”の重み 4番の35歳ベテラン「不安なく立つために」

ソフトバンク・中村晃【写真:球団提供】
ソフトバンク・中村晃【写真:球団提供】

ソフトバンクが見せた真価、常勝軍団の「系譜」

 今季の「パーソル パ・リーグ」レギュラーシーズンを鏡映しにしたような、本当に力が拮抗した激闘だった。最終第6戦までもつれた「2025 パーソル クライマックスシリーズ パ ファイナルステージ」(以下CSもしくはCSファイナル)だったが、レギュラーシーズン優勝のソフトバンクが、4勝3敗(アドバンテージを含む)で日本ハムをまたも振り切った。

 連勝スタートで早々に王手をかけてからの3連敗。小久保裕紀監督も「苦しかった。流れは完全に日本ハムだった」と率直な思いを口にした。それでも“不敗神話”は生きていた。

 パ・リーグの日本シリーズ出場をかけたプレーオフ、CSでアドバンテージを含む2勝0敗となったケースは過去20度あり、全て日本シリーズに進出を果たしていた。突破率100%というデータの後押しも受けて、ホークスが21例目を成し遂げたというわけだ。要するに、CSファイナル第1戦を勝ちきったのが大きかった。

 この試合も2025年の両チームの戦いを象徴するような大接戦だった。ソフトバンクのリバン・モイネロ投手、日本ハムの達孝太投手の両先発の好投もあり、1-1で延長戦に突入。10回に試合を決めたのはプロ12年目の33歳、山川穂高内野手だった。1死満塁から三塁手の頭を越えるサヨナラ打。山川は「サードゴロかと思ったけど、思いっきり振ったから、あれだけ跳ねた」と振り返る。いろいろな欲もあれば逆に不安もよぎる中、自分のスイングだけを心掛けた。経験豊富な男の割り切りが生んだ一打だった。

 そして、この場面を陰で演出したのが、ソフトバンクの精神的支柱といえる今季18年目の35歳ベテラン打者だった。

 この10回、まず先頭の3番の栗原陵矢内野手が四球で出塁。続いて打席に向かったのが4番・中村晃外野手だった。4番打者は平然とバットを寝かせ、初球で送りバントを成功させた。得点圏に走者を進め、サヨナラ機を演出したのである。

 CSファイナルを迎えるにあたり、小久保監督は何の迷いもなく中村を4番で起用した。レギュラーシーズン終盤には山川選手が3試合で2本塁打など復調気配を見せていた。かねて「自分は4番打者を中心に考える野球観」と語り、本来は主砲が不動で座るのを理想とするはずだった。

 しかし、小久保監督はこう言った。「(CSファイナルが)スタートするにあたって“4番山川”は誰も考えていなかったですね。山川が悪いんじゃなくて、今年の戦いの中で一番点が取れる確率を考えれば、(他の首脳陣の)誰も異論もなかったです」「不安の感情がなくグラウンドに立つために準備をする」。

当初は代打の構想も…役割を果たしたベテラン

 そして、中村はこの大一番でバントという仕事をきっちり果たした。巧打の打撃職人ではあるものの犠打はレギュラーシーズンでも4つだけ。だが、中村は試合前練習では毎日バント練習を欠かしたことがなかった。

「準備を常にする。それがあるから、自信を持って行ける。今日大丈夫かなと思った時点で人間は失敗するんです。不安の感情がなくグラウンドに立つために準備をするのです」

 かつてはリーグ最多安打のタイトルに輝いた男も年齢を重ね、チーム状況が変化する中で自身の立場や役割も多様化した。今季は当初、小久保監督と話し合いをもち「ミットは置いて、代打一本で」と覚悟を決めて臨んだはずだった。しかし、開幕早々に故障者が続出したことから、4月にはスタメンで出ることに。レギュラーシーズンでは出場116試合中スタメンが98試合あり、そのうち先発4番は40試合を数えた。

 グラウンドでいつ何時も最高のパフォーマンスを発揮するために何が必要か。チームが勝つためにどんな言動をすべきか。小久保監督は次のように言っていた。

「ロッカールームのリーダーは絶対に必要なんです。中村晃とか今宮健太がロッカーのいい設計者、文化者としてやってもらえばいいかなと思います。その立場を務めるのは監督やコーチじゃない。選手同士で声が挙がるものなんです」

 今季は度重なる故障で離脱の多かった今宮もCSファイナルに間に合い、第1戦では5打数2安打と活躍してみせた。また、第2戦では10月9日の誕生日で37歳になったチーム最年長の柳田悠岐外野手が劇的な決勝3ランを放ち存在感を示した。

中堅クラスの躍進も光った

 そして今年のCSファイナルのソフトバンクは、そんな経験豊富なベテランたちと今季飛躍を果たした中堅クラスの選手たちが融合して大きな力を生み出していた。

 柳町達外野手はチーム断トツの打率.417をマークして「パーソル賞」に輝いた。野村勇内野手はチームトップの2本塁打を放ってみせた。そして川瀬晃内野手はなんといっても、第6戦での決勝タイムリーが光った。

 川瀬については、小久保監督が「替えの効かない、スーパーサブ以上の存在」が激賞する選手となった。いわば準レギュラー。その中で結果を残す秘訣を川瀬に問うと、「毎日スタメンの気持ちで球場に行っている。同じリズムで練習することを意識しています。だからスタメンでも控えでも、気持ちが左右されることはない」という。

 そして試合中の準備の仕方も含め、「僕は(中村)晃さんを近くで見て、勉強する機会に恵まれた」と言い切る。打撃の勝負強さや守備での球際の強さはもちろん、ここ一番でチームの士気を高める振舞いを見せられる選手となった。小久保監督の言うように、まさに欠かせないピースである。

 柳町も「頼りになる先輩たちばかり。僕らも頑張らなきゃいけないなと思わされた」と言う。野村は、今年1月に今宮に弟子入りして自主トレを行っていた。そこでの意識改革がなければ今季の飛躍はなかったかもしれない。

 いつ突然出番が来ても、そして重圧と向き合わなければならない局面でも、ホークスナインは常に自信満々で最大限のパフォーマンスを発揮する。その真価と、常勝軍団の「系譜」を見た、2025年のCSファイナルの激闘だった。

(「パ・リーグ インサイト」田尻耕太郎)

(記事提供:パ・リーグ インサイト

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