2年連続、直前で変更された阪神の1位指名 “お預け”になった2選手…元スカウト明かす裏側

6位板山も「トレーナーから体幹が強いと推薦があった」
2025年の「プロ野球 ドラフト会議 supported by リポビタンD」は、米スタンフォード大・佐々木麟太郎内野手に2球団の1位指名が競合する“まさか”の展開となったが、舞台裏では毎年、虚々実々の駆け引きやドラマが繰り広げられている。現役時代に中日、巨人、西武で“強打の捕手”として活躍し、阪神でスカウトを務めた経験もある野球評論家・中尾孝義氏が回顧する。
中尾氏は2009年から2016年まで、8年間にわたって阪神のスカウトを務めた。「当時の阪神はドラフト会議前日、会場のホテルに部屋を取り、昼間にスカウト会議を開催して指名の方針を決定。夜は慰労を兼ねてホテル内で会食し、一泊してドラフト当日の午前中にもう1度、確認の会議を行うのが通例でした」と振り返る。
普通なら、スカウト会議で1位入札する選手を決定するが、時にはドラフト開会までの短い時間で結論がひっくり返ることもあったという。「最後のスカウト会議が終わった後、結論をオーナーに報告し、監督と球団社長、スカウト部長らがもう1度話をするのですが、球団の事情や監督の強い意向などで、1位指名選手が変わることがあるのです」。
中尾氏にとって忘れられないのは、2015年と2016年のドラフトだ。
2015年は、スカウト会議で駒大の今永昇太投手(現カブス)を1位入札することになったが、翌年から新監督として指揮を執ることが決まっていた金本知憲氏の意向で、明大の高山俊外野手(現オイシックス)に変更。ヤクルトとの抽選の末、交渉権を獲得した。一方で、DeNAが今永の単独指名に成功した。
さらに、この年は「6位の板山(祐太郎外野手=亜大)も、金本監督が個人的に契約を結んでいたトレーナーから『体幹が強い』と推薦されたとのことで、指名することになった選手でした。実は、当時東都大学野球リーグを担当していた私は、板山に関しては変化球が打てていなかったので、社会人野球に進んだ方がいいという考えで、球団にもそう報告していました」と中尾氏は証言する。
高山はオイシックスで現役続行、板山は中日で重宝され、大山は阪神の主軸に
翌2016年のドラフトでも、同じことが起こった。スカウト会議では創価大の田中正義投手(現日本ハム)を1位入札する方針を固めていたが、再び金本監督の意向で、白鴎大の大山悠輔内野手に替わったのだ。結局、阪神は大山を単独指名。田中には5球団の入札が集中し、抽選でソフトバンクが交渉権を獲得した。阪神は2年連続して金本氏の意向で、1位指名選手が大学生の即戦力投手から野手に替わったわけで、指揮官の打線強化への強いこだわりがうかがえる。
今永がDeNAのエースを経て、昨年からメジャーリーグへ活躍の場を移している一方で、高山は2023年限りで阪神から戦力外通告を受けたが、イースタン・リーグに参加しているオイシックスに入団し現役続行。NPB復帰を諦めてはいない。板山も高山と同じく2023年限りで戦力外通告を受けたが、中日と契約。移籍2年目の今季も84試合に出場し、勝負強い打撃と内外野をこなすユーティリティ性で重宝された。
ソフトバンクで目立った成績を残せなかった田中は2022年オフ、近藤健介外野手のFA移籍に伴う人的補償として日本ハムに移籍したのを機に開花。セットアッパーやクローザーとして、チームに欠かせない存在となっている。金本氏がこだわった大山は、目論み通りに成長し、9年目の今季も阪神の主軸打者として活躍している。
もし何らかの事情で指名選手が違っていれば、個々の野球人生は少なからず変わっていたはずで、NPB全体の勢力図に影響を与えていたかもしれない。
(宮脇広久 / Hirohisa Miyawaki)