専門家が見た山本由伸の「豹変の鍵」 2戦連続完投の理由…激変もたらした“賢さ”

ブルージェイズ戦で力投したドジャース・山本由伸【写真:ロイター】
ブルージェイズ戦で力投したドジャース・山本由伸【写真:ロイター】

2001年ダイヤモンドバックスのカート・シリング氏以来の快挙

【MLB】ドジャース 5ー1 Bジェイズ(日本時間26日・トロント)

 ドジャースの山本由伸投手は25日(日本時間26日)、ブルージェイズとのワールドシリーズ第2戦に先発し、9回1失点完投勝利。前回登板のブルワーズとのナ・リーグ優勝決定シリーズ第2戦に続き、ポストシーズンでの2試合連続完投は2001年のカート・シリング氏(ダイヤモンドバックス)以来24年ぶりの快挙となった。現役時代はNPB通算89勝をマークした右腕で、NHKのMLB中継などで解説を務めている野球評論家・武田一浩氏が、2年連続世界一へ向け、山本の快投がもたらした“3つの影響”を指摘する。

 この日の山本は、3回まで毎回先頭打者に出塁を許していたが、4回以降はなんと1人も走者を許さないパーフェクト投球。まるで別人のようだった。武田氏は「豹変の鍵はカーブでした。きっかけとなったのは、初回のブラディミール・ゲレーロJr.(内野手)の打席だったと思います」と指摘する。

 山本は初回、いきなり連打を浴び無死一、三塁のピンチ。ここで、試合前の段階でポストシーズン打率.447を誇っていた3番のゲレーロJr.を迎えた。カウント2-0から、4球続けて得意のスプリットを投じる。ゲレーロJr.は最初の2球をいずれも空振りしたが、その後の2球はファウルにして粘った。そして7球目、山本はスプリットと比べると約20キロ遅い129キロのカーブを投じ、空振り三振に斬って取ったのだった。

 2死後、前日の第1戦で2ランを放っていた5番ドールトン・バーショ外野手を見送り三振に仕留めたのも、カーブだった。ここから山本は要所でカーブを使っていった。

 武田氏は「山本が打たれる時というのは、ボールになるスプリットを見逃され、徐々にストライクゾーンに上がってきたところをとらえられるパターンが多いのです」と分析。「ブルージェイズもそこは承知していて、ゲレーロJr.がファウルで粘ることができたのも、頭の中にスプリットがあったからです。そこで、しょうがなく選択したカーブに相手は全くタイミングが合わなかった。そこからカーブを増やしていったことが功を奏しました」と読み解く。

「こういう臨機応変の対応ができるからこそ、山本は勝てる。頭が良くて、抑え方の引き出しをたくさん持っている投手なのです」と強調した。

第3戦先発グラスノーも「カーブがいい」、第4戦に控える大谷

 山本の快投が第3戦以降の展開にもたらす影響は大きい。まず、ドジャースは前日の第1戦で4-11の大敗を喫していのだが、暗雲を完全に払拭した。その第1戦は2-2の同点で迎えた6回、無死満塁の場面で先発のブレイク・スネル投手から若手のエメ・シーハン投手にスイッチした継投が失敗し、1イニング9失点の大炎上を招いた。武田氏は「山本が完投して、継投の必要がなかったことがよかったですよ。ドジャースのリリーフ陣であてなるのは佐々木朗希(投手)くらい、というのが現状ですから」と見た。

 そして「山本のお陰で、好調だったブルージェイズの各打者はだいぶ崩されたと思います。第3戦以降が楽しみになってきました」と続ける。確かに、第1戦で3本塁打を含め14安打11得点と大爆発したブルージェイズ打線は、山本の前では4安打1得点と見る影もなかった。

 27日(同28日)の第3戦に先発する、チームメートのタイラー・グラスノー投手に与える影響も大きそうだ。「彼もカーブのいい投手ですから、山本の配球などが参考になるのではないでしょうか」と武田氏はうなずいた。

 1勝1敗のタイとなり、第3戦から舞台をドジャースタジアムへ移すワールドシリーズ。武田氏は「僕はもともとドジャースが圧倒的有利と思っていて、第1戦に勝てればスイープ(4勝0敗)もありうると見ていたほどです。その第1戦は意外な大敗でしたが、山本の完投で流れをつかむのではないでしょうか」と予想する。「第4戦に先発する予定の大谷(翔平投手)も、多少の好不調があったとしても抑えると思います。(ドジャースの2年連続ワールドチャンピオンが)あっさり決まっていく気がします」と太鼓判を押した。

 ワールドシリーズ連覇の偉業に近づくにつれ、日本人選手がどんどん存在感を増していくようだ。

(宮脇広久 / Hirohisa Miyawaki)

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