3連覇を知る水本勝巳コーチが2軍に求める変化 選手育成に必要な意識「悩まないとアカン」

水本勝巳巡回コーチに求められる2軍選手の育成
オリックス2軍の現場に、水本勝巳前ヘッドコーチが巡回コーチとして帰ってきた。来季からの復帰を前に、秋季練習のグラウンドに選手を鼓舞する大きな声が響き渡っている。
「1軍で(3連覇という)いい思いもさせてもらったし、今年は(前年の)5位から3位という最低限の仕事もできましたが、そこで満足するわけにはいきません。1軍は勝つところなんで、その部分をしっかりとサポートしていきたい。(2軍の)コーチ陣には『みんなで悩もう』と言っています」。水本コーチが、声に力を込めた。
水本コーチは岡山県出身。倉敷工時代は強打の捕手として夏の甲子園に出場し、社会人野球の名門・松下電器(現パナソニック)から、広島のテストに合格し1989年ドラフト外で入団した。現役生活はわずか2年で1軍の試合出場はないが、長いブルペン捕手生活から2軍バッテリーコーチを経て、2016年から2軍監督に就任。2年目の2017年にはウエスタン・リーグで26年ぶりの優勝、初のファーム日本一に導き、1軍に人材を送り込むことで、2016年からのリーグ3連覇を支えた。
オリックス入りしたのは2021年から。2軍戦を通じて親交が深く「野球観が同じ」という中嶋聡2軍監督が1軍監督に就任する際にオリックスの1軍ヘッドコーチとして招かれた。1年目の春季キャンプから「野球小僧になろう」とプレーにひたむきさを求め、「勝つ喜びを知ればチームは変わる」と、常に大きな声で厳しい言葉を選手に投げかけてきた。チームの“伝統”を知らない外様だからこその苦言も呈し、選手の意識の変化を促すことで、補佐役としてリーグ3連覇、日本一にチームを導いた。
岸田護新監督を迎えた今季、Aクラス入りを支え、次なるミッションは2軍選手を育成して1軍に送り込み、約80人の支配下と育成選手の力を結集させることで3年ぶりの優勝だけでなく、常勝チームの基礎を築き盤石とすることだ。
コーチ陣に求める意識の変化「ファームは悩むところ」
「育成も含め選手全員でどうチームを強くしていくかということを、もう一度考え直したいと思っています。でも、これは一人でできることではありません。岸田監督と風岡(尚幸2軍)監督、僕やコーチみんなで話し合いながらいい方法を考えていかないといけません。選手にとって何が一番いいのか。横一線の練習をしても、その選手に合っていないかもしれません。一人一人と向き合っていかなければいけないので、時間はかかります。遠回りもあるかもしれません」と水本コーチと語る。
広島2軍監督時代のやり方が、通用しないことも分かっている。「今は昭和とは違うので『やれ』とやらせるのではなく、コミュニケーションをとって納得させることが大事。コーチの人たちにとっては時間がすごくいるし、本気(になること)も必要。方法論に正解はないけど、どうやったら選手が上手くなるんだろうというのを、本当に悩まないとアカン。そればっかりなんです。ファームは悩むところなんで」と、コーチ陣にもさらなる意識の変化を求めていく。
「どのポジションにいようと、選手が上手くなるのをみたいし、そのきっかけを作るということを自分の中で大事にしている」と話す。ただ、限界も分かっている。「僕が教えたからといって、全員が打てるようになるわけでも、上手くなるわけでもない。でも、いい選手になってほしいので、僕らも(指導方法の)引き出しの部分を勉強しないとアカンのです。答えはないんで、そこはしっかりとやっていきます」
1軍の戦力を見極め、2軍の選手を育成し、1軍に戦力として供給するのが巡回コーチの役目。育成の現場を知りつくした名伯楽が、1軍と2軍のパイプ役として、選手に寄り添いチームの底上げを図る。
〇北野正樹(きたの・まさき)大阪府生まれ。読売新聞大阪本社を経て、2020年12月からフリーランス。プロ野球・南海、阪急、巨人、阪神のほか、アマチュア野球やバレーボールなどを担当。1989年シーズンから発足したオリックスの担当記者一期生。関西運動記者クラブ会友。2023年12月からFull-Count編集部の「オリックス取材班」へ。
(北野正樹 / Masaki Kitano)