野球“後進県”→大谷翔平ら輩出の転機 MLB選手が賛同…岩手発「人気企画」の意義

子どもたちの疑問にMLB選手たちが答える「教えてメジャーリーガー」
近年多くのメジャーリーガーを輩出している岩手県の地元紙が生み出した“人気企画”がある。岩手日報の連載「教えてメジャーリーガー」は、子どもたちの疑問にMLB選手たちが親身に答える企画だ。2023年に始まり、来季で4年目を迎える。回答した選手はすでに100人を超えた。岩手発だからこそ伝えられるメッセージが、この企画の原点にある。
企画は、自らも岩手出身のスポーツライター・及川彩子さんが発案して持ち込んだ。「知り合いのお子さんに『メジャー選手は体が大きいの?』『〇〇選手と話したことある?』と聞かれ、子どもたちの質問をメジャー選手に答えてもらったら、楽しいだろうなと思ったんです」。質問をヤンキースのアーロン・ジャッジ外野手にぶつけたところ、「いい企画だね。頑張って」と笑顔。岩手出身の菊池雄星投手も「贅沢な企画ですね。僕が子どもの時、こんな企画なかったですよ!」と賛同した。
寄せられるのは野球の技術に関することだけでなく、「好きな給食はなんでしたか?」「嫌いな食べ物も食べなきゃいけませんか?」「好きな漫画はなんですか?」という子どもらいい質問も。それでもメジャーリーガーたちは「楽しい企画だね!」と口を揃え、笑顔で回答してくれる。「3年目になったので、レギュラーメンバー的な選手も増えてきて、『今年の質問は何?』と声をかけてくれるので、とてもありがたいです」。選手が回答を書き込んだメッセージボードが、質問した子どもに送られることもある。
「嫌いなものも食べないといけない?」という質問に、ジャッジは「野菜は食べなくちゃいけないよ。僕は人参とブロッコリーが大好き。先生や親に言われても食べたくないのかな。僕が『頑張って食べよう』と言ったら食べてくれるかな。『ちびっ子のみんな、頑張って食べよう!』」とメッセージを送った。子どもの質問だからこそ、選手たちからはユーモアのある回答も飛び出す。素顔が垣間見えるコンテンツは、SNSでも好評となっている。
当初は岩手の子どもたちに限っていたが、全国各地から質問したいという声が寄せられ、現在は日本中の子どもたちから質問を募っている。及川記者は「世界は広いけど狭いということ。選手が真剣に回答してくれたり、自分を応援してくれているメジャーリーガーがいることを子どもが知って、野球に関わらず、勉強だったり学校生活などを送る際に、元気になったり勇気が出たり、頑張れる原動力になるといいなと思います」と、企画に込めた思いを語る。
野球“後進県”から…確実に変わった子どもたちの目標
近年は岩手から、菊池をはじめ、大谷翔平投手、佐々木郎希投手らがメジャーへ羽ばたいた。花巻東高はいまや全国屈指の名門となっているが、かつて岩手はスポーツ「不毛の地」とも言われていた。
企画立ち上げメンバーで、現在は同社の一関支社長を務める太田代剛(おおたしろ・たけし)氏は、「甲子園では対戦相手が岩手県代表に決まったら、相手が喜んでいましたから。2回戦までいければ万々歳のレベルでした」と当時を振り返る。県内の中高生たちを取材していても、掲げていた目標は、高くても全国ベスト8だった。
転機は2009年。菊池擁する花巻東高が選抜で準優勝し、夏も4強入り。岩手が大きく湧いたこの躍進が、“きっかけ”をもたらしていた。「彼が満身創痍で最後まで投げ抜いて。あの夏で岩手全体の意識が変わった気がするんです」。その菊池は米国で長年活躍。高校の後輩でもある大谷は4度のMVPを獲得するなど、メジャーを代表する選手にまで成長した。
世界を股にかけた先輩たちの活躍は、確実に子どもたちの夢の可能性を広げている。「今の高校生とかに話を聞くと、『夢はメジャーリーガー』『金メダルを獲ること』と普通に言うようになりましたね。最初の心がけが違うと、たどりつくところも違うと思うんです」。
「教えてメジャーリーガー」も、大きな夢を持ってもらうための”きっかけ”の1つになってほしいと願う。「子どもたちへの回答を見ていても、選手は人格者ばかりなんです。そういうのを子どもたちに知ってもらえたら。そして岩手の子に、意外と世界は手の届くところにあるんだというのを知ってもらいたい」。今や野球大国となった岩手から、全国の子どもたちに”夢の可能性”を伝えていく。
〇「教えてメジャーリーガー」
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