銀行員が掴んだプロの道 営業に融資、自炊した弁当…54年ぶり快挙生んだ“爆速”

外回りで会社や顧客から融資の相談受け、午後はグラウンドで野球の練習
西武が10月のドラフトで6位指名した四国銀行・川田悠慎(かわだ・ゆうしん)外野手は、2年間銀行員として勤務した変わり種。直近は会社や顧客を訪問する営業業務を担当していた。プロ1年目に打席に入る際に流れる登場曲には「四国銀行の社歌を使うと決めています」。異例の選曲で“銀行員魂”をたぎらせている。
「高知市の大津支店で窓口業務などを一通り経験させていただき、最近は外回りをしています」と川田。会社や顧客から融資の相談を受けることも多く、「命の次に大事なものがお金だと思っています。お客様のお金を扱う以上、安易なセールスもできない。話しかけ方などにも気を遣ってきたつもりです」と表情を引き締める。
高知高、京産大を経て、昨年に入行。「野球の緊張感と、銀行員としての緊張感は別物です。初めて、野球以外で緊張感を味わうことができました。お陰で、今まで野球で緊張していたところでも、いい方に考えて緊張しなくなりました」と意外な“効能”を説く。
午前中は支店で勤務し、午後はグラウンドでチーム練習というパターンが多い。特技は料理で、栄養の偏りがちな外食を避け、弁当を自作していた。「親子丼、そぼろ丼、オムライスなどを作っていました」と笑う。
プロで登場曲に使用すると決めている四国銀行の社歌は、2020年に高知県を拠点に活動するバンド「song sparrow」のKyas(キャス)さんが作詞・作曲した「bloom(ブルーム)」という楽曲だ。フォークソング風の“社歌っぽくない社歌”で、「いつでも どんな日も 忘れない ただあなたが 笑顔でいられるように そんな日々を……」と情感あふれる歌詞とメロディーが印象的である。
50メートル5秒7の快足「自分より前を走る人を見たことがない」
四国銀行の営業統括部によると、「bloom」はCMに使用される他、野球の試合のスタンドで演奏され、SNS上で「社歌っぽくない」「普通にいい歌」と話題になったこともあるとか。ちなみに、四国銀行の選手がドラフトで指名されたのは、1971年にロッテから3位指名された弘田澄男内野手(ロッテ、阪神で通算1506安打を放つなど活躍)以来、54年ぶりの快挙でもある。
そんな川田の野球選手としての一番の持ち味は脚力。「50メートル走5秒7」というのは、プロ野球界でもほとんど聞いたことのないレベルのタイムである。「陸上の大会は別として、野球で自分より速い選手を見たことがありません。実はプロではそこが楽しみで、自分より前を走る人が現れた時に、自分がどういうメンタルになるのか。新しい課題が見つかると思います」と語るほどだ。
「プロ野球で足と言えば、(ソフトバンクの)周東(佑京)選手だと思うので、ナマで見てみたいです」と目を輝かせ、「タイトルで言えば、盗塁王を獲れるような選手になりたい」と目標を掲げた。
背番号は「66」。来年2月20日に24歳となり、新人としては若くない。慣れ親しんだ“社歌”を背に、1年目から勝負をかける。
(宮脇広久 / Hirohisa Miyawaki)