村上より低額契約予想も…岡本には“追い風”のトレンド MLBに挑む3選手のリアルな現地評

村上は「40HR級のパワー」、岡本は「非常に洗練されたコンタクトヒッター」
メジャーリーグは本格的なオフシーズンを迎え、12月7日(日本時間8日)にはウインターミーティングが開幕した。米国内のMLB専門チャンネルやポッドキャストでは、NPBから移籍する次世代の日本人スターたちの名前も登場。村上宗隆(ヤクルト)、今井達也(西武)、岡本和真(巨人)のポスティング申請を受けて、MLBのベテラン・インサイダーであるジョン・ポール・モロシ氏はMLBネットワークのトーク番組「ホットストーブ」で、「メジャーリーグに流入する日本人選手という点では、史上最高のオフシーズンの一つ」と分析している。
今オフにMLB入りする3人のスター選手のうち、村上と岡本はコーナー内野手(一塁、三塁)の補強を求める球団から強い関心を寄せられている。 モロシ氏は村上について、若さと打撃面での成長の可能性を主因に、より高額な契約を獲得すると予測。ただ、MLBアナリストや球団は村上の生来のパワーポテンシャルに大きな期待を寄せる一方、三振率、空振り率の高さ、守備力の低さには懸念を示している。
ベースボール・アメリカのジェフ・ポンテス氏はMLBネットワークのトーク番組「ファウル・テリトリー」の中で、村上を「安定した打撃を続けられれば、メジャーでも40本塁打級のパワーを秘める選手と言えるが、守備は非常に限定的」と評したうえで、「球団側は攻撃面と守備面の両方での安定性を懸念している」と語った。ポンテス氏は、レンジャーズなどで通算208本塁打を放ったジョーイ・ギャロと村上が類似すると指摘。ギャロは超人的なパワーヒッターとして知られた一方、シーズン200三振を2度記録し、通算打率も.194と不安定だったことから、村上の三振率の高さを懸念している。結局のところ、MLBアナリストやスカウトは村上を「ハイリスク・ハイリターン」の選手と見なしており、スカウト陣は村上の最近の負傷歴も潜在的なリスクとして挙げている。
一方、岡本についてポンテス氏は「非常に洗練されたコンタクトヒッターで打撃アプローチが良く、ある程度のパワーも持ち守備も優れている」と評価。 アナリストやスカウトも岡本は村上よりもリスクの少ない選手として捉えているが、村上が25歳なのに対し岡本は29歳であり、パワーでも劣るため、契約期間の長期化は見込めずに村上よりも契約総額は低くなると予想している。MLB球団は過去の成功よりも将来への期待値を重視する傾向があるためだ。
ポンテス氏は、岡本の打撃について、今季27本塁打を放ったガーディアンズのカイル・マンザードのような選手だと分析。マンザードは大谷翔平やアーロン・ジャッジのように速度115マイル(約185キロ)以上の打球を放つことはできないが、95〜105マイル(約153〜169キロ)の打球を安定して放つ好打者。また、コンタクト率と打ち出し角度はエリートレベルではないものの、優秀であるのが特徴だ。
村上は時速115マイル以上の打球を打つことができるが、三振率も高いと指摘されており、昨今のメジャーの野球(打撃)がコンタクト重視へと推移していることが岡本には追い風になっている。コンタクトヒッターとして通算.283の打率を残し、堅実な三塁守備でも知られる元ドジャースのジャスティン・ターナーのような選手だという声もある。
今井のスライダーはワールドシリーズで活躍したブルージェイズ新人に酷似
では、投手の今井はどうか。FA市場の大きな動きを見てみると、ア・リーグ王者のブルージェイズが通算65勝のディラン・シースと7年総額2億1000万ドル(約326億円)で契約し、レッドソックスはカージナルスから通算125勝のソニー・グレイをトレードで獲得。2人の大物先発投手が市場から消えたことで、今、最も大きな注目を集めているのが今井となっている。
先日、日本のテレビ番組で松坂大輔氏のインタビューを受けた今井が「大谷翔平やワールドシリーズMVPの山本由伸といった日本のスター選手とプレーするのは素晴らしい経験になるだろうが、むしろ彼らを倒したい。そんなチームを打ち負かし、ワールドチャンピオンになることが人生で最も価値あることだと思う」と語ったことは全米中の話題となり、その心意気に賛同する声が溢れかえった。
近年、豊富な資金力をバックに高額年俸でスタープレーヤーを次々と獲得してきたドジャースに対し、米国では「ドジャースが野球を台無しにしている」という辛辣な声も出ている。その中で今井の発言は大きく取り上げられ、「ジ・アスレチック」のケン・ローゼンタール記者はMLBネットワークの番組「ファウル・テリトリー」の中で「今井はすでに私のお気に入りの選手かもしれない。なぜなら彼が『ドジャースを倒したい、彼らを打ち負かしたい』と言ったからだ。これは今井がどんな競争者になるかを示すものだ」と熱弁した。MLB大手メディアの「ジョンボーイ・メディア」もインスタグラム、YouTube、Xなど再投稿したことで今井の発言は拡散。コメント欄にはファンからの敬意と称賛の声が殺到し、ドジャースのライバル球団であるナ・リーグ西地区のファンから大きな注目を集めた。
「ジ・アスレチック」は、今井をエンゼルスの菊池雄星(MLB通算防御率4.46、WHIP1.359、9.2奪三振/9イニング)、メッツの千賀滉大(MLB通算防御率3.00、WHIP1.25、10.1奪三振/9イニング)、黒田博樹氏(MLB通算防御率3.45、WHIP1.17、6.7奪三振/9イニング)と比較。今井は8年総額1億9000万ドル(約295億円)規模の大型契約を獲得すると予測している。
また「ファングラフス」のエリック・ロンゲンハーゲン記者は「ファウル・テリトリー」の番組内で今井について「球威のある速球、優れたスライダーを投げる投手。腕のスピードが打者を欺き打者に球筋を悟らせない」と評価した。投手評価では定評のある「ジ・アスレチック」のエノ・サリス記者も「他のどの投手よりも高く評価している」と述べ、小柄な今井が20度の低い投球角度から繰り出すライジング・ストレートに注目。同様のストレートで9イニングあたり10.1奪三振を記録したミネソタ・ツインズのオールスター投手、ジョー・ライアンと重ね合わせた。さらに同記者は、今井の縦方向の落ちるスライダーについても評価。ブルージェイズの新人でドジャースとのワールドシリーズで活躍したトレイ・イェサベージのスライダーに酷似すると評価した。
村上、岡本に興味を示している球団は、ヤンキース、レッドソックス、ブルージェイズ、マリナーズなどが挙げられる。これらの球団はいずれも、内野のコーナーポジションで信頼性の高い強打者を必要としており、外野でもその多才さを活かせる選手を求めている。また、今井を巡ってはメッツ、ヤンキース、ジャイアンツが有力な獲得候補先として見られている。今後の交渉の推移に注目が集まる。
(笹田大介 / Daisuke Sasada)