「うるせぇ!」漁師と大乱闘で灰まみれ 報復に宿舎へトラックが急襲…豪快すぎた猛牛伝説

元近鉄・栗橋茂氏【写真:山口真司】 
元近鉄・栗橋茂氏【写真:山口真司】 

元近鉄・栗橋氏が振り返る“豪傑伝説”の真実

 近鉄バファローズは1976年から1982年までの7年間、高知県宿毛市で春季キャンプを行っていた。そこで数々の“豪傑伝説”を残したと言われているのが、元猛牛主砲の栗橋茂氏(藤井寺市・スナック「しゃむすん」経営)だ。地元の漁師たちとスナックで大乱闘しトラックで近鉄宿舎に乗り込まれた、などの仰天エピソードはすべて真実なのか。いきさつも含めて、“事件”について改めて語ってもらった。

「あれはね、スナックでジャンボ仲根(仲根正広外野手)と漁師の人たちが飲んでいたんだよね。たぶん、仲根がお世話になっていた人たちだと思う。でも何か仲根が(飲まされて)しんどそうにしていたから、俺がそこに行った。こっちも酔っていてさ、『ジャンボ、もういいから』って言ったら『何だ、お前は!』って言われて『うるせぇ。ジャンボ、こっち来い』と。そしたら『お前、誰だ』と言うからさ、『うるせぇって言っているだろ、この野郎!』みたいな感じで返したら、ワーとなって……」

 それが大乱闘の引き金になったという。「店には煙突のある昔のストーブがあったんだけど、もう灰だらけになってね。その時、近鉄のフロントもいて、加勢してくれたんだけど、彼らも(大学の)ラグビー(部)上がりで元気がいいんだよね。かなりの大人数でゴタゴタになったんだよ。店のマスターは、俺らのことをかわいがっているし、漁師さんたちのことも知っているから間に入って大変だったと思うよ」。

 店はグチャグチャになったが、その場はマスターの仲裁もあって警察沙汰にもならずに治まり、栗橋氏らは宿舎に引き揚げたという。だが、話には“続き”があった。漁師たちにトラックで乗り込まれたという一件だ。「夜中にトラックで宿舎に来たらしいんだよね。『栗橋、出せぇ!』ってね。俺は寝ていたから知らなかったんだよ。起きていたら、出て行っているからね」。

 何事も起きなかったそうだが、もしも乗り込まれた時に、栗橋氏が熟睡していなかったら、もっと大変なことになっていたかもしれない。「まぁ漁師さんは、あの時、別に悪いことをしていなかったんだもんねぇ。仲根にごちそうしていたくらいで、何であんな風になるんだって思ったんじゃないのかなぁ。だから俺のことを許せなかったんだろうね」と振り返ったが、いやはや、何とも……。

 宿毛キャンプでは一晩中飲んで宿舎に帰ったら朝の体操に出くわして、必死に隠れた“伝説”もある。「体操は朝の8時に始まるので、みんな出てきていたんだけど、その中に(朝帰りで)入っていけないわけ。だから、ホテルと国道を遮った低いブロック塀のところでかがんでいた。そしたら、(近鉄監督の)西本(幸雄)さんがこっちに体操しながら歩いてきたんだよ。俺はもう(隠れるために)地べたに寝たよ。ブロック塀の穴からそっと様子を見ながらね」。

 西本監督は塀の後ろで隠れている栗橋氏のすぐそばまで来たそうだ。「やばい。俺、どうなるのかなぁって思ったね。(国道を通っていた)トラックの運ちゃんは“こいつ、何寝ているんだろう”って思うよね。俺は西本さんを意識しながら、運ちゃんにも“シー”って(ポーズを)やっていたよ」。結局、指揮官に気付かれることなく、体操タイムは終了したという。「西本さんは知らないふりをしてくれたのかも。その後、その話はしていないから分からないけどね」。

ホテルで“乱闘劇”も…栗橋氏を止めた仰木彬コーチ

 栗橋氏の”逸話”はキャンプ地以外でもいろいろある。ある年のオープン戦中には奈良のホテルで一般客と“乱闘劇”もあったという。「広島とのオープン戦が雨で中止になって、みんなそのホテルで風呂に入って着替えて帰るんだけど、そこの宴会場で結婚披露宴をやっていた。俺は最後に行ったから、知らなかったけど、みんなバスタオル1枚とか軽く羽織った感じで、それを見ていて(披露宴に)出席していた人は怒っていたらしいんだよね」。そこで“事件”は起きた。

「俺がその辺に行ったら、着物を着た女性がいた。俺はホテルの人と思って『すみません、あのぉ、お風呂はどこでしょうか』と聞いたら、笑いながら行ったからおかしいなとは思ったんだよね。そしたらソファーに座っていた3、4人の男連中がブワーって俺のところに来て『貴様ぁ!』って羽交い締めにされた。『人の女房をつかまえて、一緒に風呂に入りませんか、とはどういうことだ!』って言うから何言っているんだと思ってさ『何ぃ!こらぁ!』って振り払ったんだよ」

 一般客の女性をホテル関係者と間違えたのがきっかけで騒動になった。「振り払っただけだったけど、こっちはパワーがあるしさ、(絡んできた男性客は)受け身も何もできないじゃん。みんな転がって、メガネが割れたりしたんだよね。俺は“何なんだ、こいつら”って思いながら風呂に行ったんだけど、出てきても待っていて、『貴様! どうのこうの』って。着替えるためにホテルの部屋に戻っても、ずっとついてきて部屋の玄関みたいなところまで入ってきて……」。

 そこで登場したのが近鉄・仰木彬コーチだ。「部屋が仰木さんと一緒だったの。で、引き連れているのを見て『クリ、どうしたんや』って。『いやいや、わけ分からないです、こっちも』って言ったら、男連中が『お前は誰や』と言うから『俺は近鉄の栗橋じゃあ!』って向かっていこうとしたら、仰木さんが『クリ、やめとけぇ!』と止めてくれたんですよ。それで何とかね」。そう話すと栗橋氏は思いだしたように、笑いながら付け加えた。

「あの時、仰木さん、まだ風呂に入っていなくて、浴衣がはだけると(股間が)丸みえだったんだよね。『仰木さん、出てる、出てる』って。そんなの見たら、相手はもっといきがっちゃうからさ、駄目だよね。でも、あれはホント、仰木さんに助けられたよね」。この騒動は後日、壊したメガネを弁償し、サイン色紙を送るなどして解決したそうだ。「まぁ、俺もまだまだ元気のいいときだったからねぇ」。良し悪しはともかく、すべてが“伝説”となっている。

(山口真司 / Shinji Yamaguchi)

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