「通算打率.254の殿堂入り」はなぜ実現? 7.3%からの大逆転…AJの栄誉に見る“野球の進化”

殿堂入りが発表されたアンドリュー・ジョーンズ氏【写真:アフロ】
殿堂入りが発表されたアンドリュー・ジョーンズ氏【写真:アフロ】

通算434HRも初年度は得票率7.3%…知られざる歴代最高「dWAR」

「通算打率.254」――かつての米野球殿堂の価値観では、この数字は殿堂入りに届かない“壁”を意味していた。その常識は20日(日本時間21日)、ブレーブスなどで活躍したアンドリュー・ジョーンズが選出されたことで、塗り替えられた。投票初年度は得票率わずか7.3%だった男が、最終的には78.4%まで支持を広げ、大逆転で栄誉をつかんだ。これは単なる「名選手の殿堂入り」ではない。野球という競技の評価基準そのものが更新されたことを示す、象徴的な出来事となった。

 ジョーンズは10代でブレーブスのレギュラーをつかみ、2005年には51本塁打、128打点で2冠王。30本塁打以上も7度を数え、通算434本塁打を放った。しかし評価は割れた。理由は明確で、通算1933安打、打率.254という数字が、殿堂入り選手に求められてきた「3000安打」「打率3割」といった伝統的基準を満たしていなかったからだ。2018年に初めて殿堂入り候補となったが、得票率は7.3%。一発で候補資格を失う5%以下すら危ぶまれ、翌2019年も7.5%と低迷。まさに崖っぷちの状況だった。

 流れを変えたのが、セイバーメトリクスの浸透である。ジョーンズの真価は、打撃以上に守備にあった。1998年から10年連続ゴールドグラブ賞。楽天時代の印象からは想像しにくいが、MLB史上最高の中堅手の一人と評されている。そしてデータへの理解が深まるなか、ジョーンズへの評価の軸そのものが変わっていった。

 野球統計サイト「ベースボール・リファレンス」では、選手の貢献を「平均的な選手と比べて、どれだけ得点を生み、どれだけ失点を防いだか」で数値化している。ジョーンズの打撃貢献(Rbat)は通算+119に対し、守備貢献(Rfield)は+253。同じく10年連続ゴールドグラブのイチローでも、それぞれ+84、+122であり、守備面での突出ぶりが際立つ。

 さらに守備による勝利貢献度を示す「dWAR」は歴代最高の24.4。簡単に言えば、ジョーンズは通算434本塁打以上の価値を、守備で生み出していたという再評価が進んだ。こうした指標が浸透するにつれ、記者たちの認識は徐々に変わっていった。2020年には得票率が19.4%へ急増。その後も毎年10%前後ずつ上昇し、昨年は66.2%に到達。そして最後の後押しとなったのが、投票環境の変化だ。

イチローら「超大物」が去った後の空白

 2025年度の殿堂入り投票は、殿堂入り当確のイチロー、資格初年度のCC・サバシア、資格10年目のビリー・ワグナーらがひしめく混戦だった。記者が投じられる票は最大10人まで。この“枠の争奪戦”が、評価の分かれるジョーンズの足を引っ張っていた側面は否めない。しかし昨年、イチローらが揃って殿堂入りし、投票用紙から「消えた」ことで状況は一変した。

 米スポーツメディア「ジ・アスレチック」のジェイソン・スターク記者も、ジョーンズが票を伸ばせた理由について「投票先を厳選する『スモール・ホール(厳選派)』の記者たちが、他に選択肢がなくなったことでジョーンズに目を向けたことが大きい」と分析する。初年度得票率10%未満から殿堂入りを果たした史上初のケースとなった点も、この選出の異例さを物語る。

 ジョーンズの殿堂入りが示したのは、本塁打数や打率といった“表面的”な数字だけが偉大さを決める時代の終焉だ。浅い守備位置から信じられない打球を追い、無数の失点を防いできた中堅手。その見えにくい価値が、ついに最高の評価を受けた。

 7.3%から始まった逆転劇は、野球が進化してきた証明でもある。クーパーズタウンに立つアンドリュー・ジョーンズのブロンズ像は、データが伝統的な偏見を打ち破った新時代の象徴として、これからも語り継がれていくだろう。

(新井裕貴 / Yuki Arai)

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