1年秋に都城東へ“異例の編入”「打倒・私学」 母の一言で掴んだきっかけ…諦めきれなかった夢

緊張の面持ちで取材に応じた城東・佐藤奏良【写真:岡部直樹】
緊張の面持ちで取材に応じた城東・佐藤奏良【写真:岡部直樹】

東京都高等学校野球秋季大会で帝京に敗れ惜しくもセンバツの切符を逃す

 住宅街に囲まれた東京・都城東のグラウンドで、私学に挑む高校球児がいる。佐藤奏良内野手(2年)は名門私学からの転校、1年間の公式戦出場停止、帝京戦での痛恨の逆転負けを経験した。一度は諦めた甲子園。それでも頑なに挑戦をやめなかった理由はどこにあったのか――。東京には、遠回りをしてでも夢を追い続ける高校球児がいる。

 東京都高等学校野球秋季大会の3回戦。帝京との激戦は終盤まで緊迫した展開が続いた。好投の下村佑介投手(2年)に代わり、7回2死走者なしの場面からマウンドへ上がったのは佐藤。その回は無失点で切り抜けたものの、続く8回、帝京のクリーンアップに捕まった。4番安藤丈二投手(2年)、5番目代龍之介外野手(1年)に2者連続本塁打を浴び、試合はそのまま3-4で逆転負けを喫した。都城東を破った帝京はその後、勢いに乗って東京の頂点へ駆け上がり、16年ぶり15度目となるセンバツ出場を確実にしている。

 試合終了直後、ベンチ裏で号泣した佐藤は仲間に両肩を抱えられて運ばれ、球場から出ていたことすら気づかなかったという。勝ちたい思いが強かったからこそ、仲間の顔を見ることができなかった。

 佐藤は高校進学の際、東京の名門・二松学舎大付へ入学したが、寮での生活が合わなかったことなどから退部。学校を辞める決断をし、1度は野球から離れた。「やはり自分には合わなかったというか、自分が弱かったのだと思います。監督や部長の先生、寮長、先輩の方も気にかけてくださいました。今はとても感謝しています」と当時の気持ちを明かす。

「高校野球を辞める覚悟」を決めた佐藤の心を動かしたのは、母の一言だった。「都城東高校の練習を見に行ってきたら?」。軽い気持ちで見学に訪れると、夏の大会を前に、一生懸命に楽曲を奏でるブラスバンドの応援風景を目の当たりにした。その瞬間、「もう一回甲子園を目指したい」という熱い思いがこみ上げてきた。都城東での再起の決意を固めた瞬間だった。

練習中も軽快な守備を見せる城東・佐藤奏良【写真:岡部直樹】
練習中も軽快な守備を見せる城東・佐藤奏良【写真:岡部直樹】

温かく迎えてくれた「みんな家族のような感じ」

 2024年9月に編入し、野球部へ入部した佐藤を待っていたのは、温かい仲間たちだった。「先輩方や同級生も、自分が転校してきたということを忘れてしまうくらい、仲良くしてくれました」と感謝を口にする。

 ただ、日本高等学校野球連盟(高野連)の規定により、過度な選手引き抜きなどを防止する観点から「転校した生徒は満1年間、公式戦に出場できない」というルールがある。そのため佐藤は、編入から2025年秋の大会直前までの期間は出場停止を余儀なくされた。

 規則は分かってはいたが、高校3年間という限られた時間の中で、1年間の出場停止はあまりにも大きい。ただ、佐藤は前向きな姿勢を失わなかった。出場停止期間も「甲子園に行くんだ」という気持ちを絶やさず、ひたむきに練習に打ち込んだ。公式戦には出られなかったが、周囲は練習試合などを通じて実戦的な経験を積めるよう配慮。佐藤も牙を研ぎ澄ませた。

 帝京に敗れて数か月後、佐藤は主将に立候補した。これまでの野球人生でキャプテン経験はなかったが、「私学の練習風景を知っているからこそ、自分が引っ張らないとチームは強くならない」。強い思いが背中を押した。甲子園を目指す覚悟を、行動で示す決断だった。

 12月は徹底した走り込みやトレーニングを主とした「地獄の冬練」に身を置いた。チーム全体で過酷なメニューをやり遂げることで、私学にも負けない体力と精神力を養う。忘れることのできない悔しさを晴らす夏は、もうすぐそこまで来ている。

 遠回りは失敗ではない。立ち止まった時間や流した涙が、覚悟の輪郭をはっきりさせることもある。私学を知り、外から東京の高校野球を見た佐藤の歩みが証明している。勝ち負けだけでは測れない経験が、人を強くし、価値となる。

○著者プロフィール
岡部直樹(おかべ・なおき)1998年、千葉・佐倉市生まれ。小・中・高と白球を追い続けた元球児。前職のIT企業時代には、プロ野球を中心に年間40試合以上を現地で観戦。その野球愛を伝えるべく、2025年1月よりFull-Count編集部に加入。趣味は風景写真。北海道にある有名な観光地“青い池”を撮影した作品でフォトコンテストを受賞した経歴を持つ。磨いた感性と技術を武器に、2025年のプロ野球現場ではカメラマンとしても活動。“撮れて、書ける”記者として、一瞬の表情に宿る現場の熱量を届ける。

(岡部直樹 / Naoki Okabe)

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