主力の薬物違反を一蹴、愛息と共闘も「選手の1人に過ぎない」 冷徹なオランダ代表ジョーンズ監督の“本心”

  • 佐藤直子 2026.03.06
  • 海外
打撃ケージの裏で肩を並べるアンドリュー・ジョーンズ監督(右)と息子のドリュー【写真:佐藤直子】打撃ケージの裏で肩を並べるアンドリュー・ジョーンズ監督(右)と息子のドリュー【写真:佐藤直子】

オランダは元楽天で米殿堂入りのアンドリュー・ジョーンズ監督が指揮

 東京で2026ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)が開幕した5日、米フロリダ州マイアミでは1次ラウンド・プールDの5チームが公式練習と記念撮影、記者会見を行った。舞台となるローンデポパークでは、朝9時から公式練習が予定されていたニカラグアに続き、イスラエル、ベネズエラ、ドミニカ共和国、オランダの順で登場。リズミカルなラテン系音楽が流れる球場は、開幕前日の心地良い緊張感と、各チームが発する勝利への意欲で満たされた。

 午後5時。トリを飾ったオランダが公式練習を始めた。今回のWBCでは正外野手と目されていたジュリクソン・プロファー選手(ブレーブス)が2度目の薬物規定違反のため、レギュラーシーズン162試合とポストシーズン、ならびにWBCへの出場停止処分を科されて、まだ2日。チームに重い空気が流れているかと思いきや、まるで何事もなかったかのように和やかな雰囲気で練習が終了した。

 練習後の記者会見で、プロファーの不在がチームに与える影響を聞かれた元楽天で米殿堂入りしたアンドリュー・ジョーンズ(AJ)監督は「影響? ないね。みんな大人なんだから、そんなことで感傷的になってられない」と一蹴。「怪我と同じ。こういうことが起こる時もある。故障者が出たものだと思って、前に進むだけ。だって、自分にはどうしようもないことなんだから。彼の問題であって、チームの問題ではないしね」とニヒルな笑いを浮かべながら正論を並べる姿は、ややもすると冷徹にさえ見えた。

 ただ、勝負事には私情を挟まないのが、AJが貫く一流の在り方かもしれない。勝利に対しては淡泊にプロフェッショナルな態度を突き通したからこそ、日米通算19年のキャリアのうち、米では通算434本塁打、1289打点、打率.254という米殿堂入りにふさわしい成績を残せたのだろう。

あどけなさ残る息子は共闘に感激「本当に幸せなこと」

 今回の代表メンバーには、2022年MLBドラフト全体2位指名でダイヤモンドバックス入りした愛息のドリュー外野手も選出された。まだあどけなさの残る息子は「自分のルーツでもあるオランダ王国のために野球ができる、そして監督を務める父のためにプレーできるなんて、本当に幸せなこと」と感慨ひとしおの様子だが、父はと言えば「選手の1人に過ぎない」と素っ気ない“塩反応”だ。

父アンドリュー(中央右)と息子ドリュー【写真:佐藤直子】父アンドリュー(中央右)と息子ドリュー【写真:佐藤直子】

 第1回大会から20年を迎える今回大会は「子どもの頃にWBCを見て育った」という選手が大半を占めるが、ドリューもその1人だ。「初めて見たのは2013年。父から『最後の出場になるかもしれない。しっかり見ておくように』って言われて、興奮しながら見たのを覚えています。ここは僕にとって夢舞台の1つ」と目を輝かせる。

 一方、父はご想像の通り、「同じユニホームを着たことがないので、間近でプレーを見る貴重な機会」とは言うものの、「調子が悪ければ俺の隣でベンチを温めるだけだよ」と不敵な笑み。どこまでも父親の顔は見せないようにガード固める。

 だが、現役時代は10年連続でゴールドグラブ賞に輝いた鉄壁の守りも、ふとした瞬間に綻びは生まれる。ドリューがフリー打撃を行っていた時のことだ。打撃ケージの周りから息子のバッティングをジッと見つめる父。自身の現役時代を彷彿とさせる、しなやかで大きな弧を描くスイングに何か思うところがあったのだろうか。打ち終わり、ケージ裏で自分の左隣に立った息子に何やら話し掛ける様子。すると、そこまで一度も見せなかった柔らかな笑顔を咲かせたのだ。

 本当は嬉しくて仕方ないのだろう。プロファーの不在も痛恨だったかもしれない。でも、その気持ちを勝負の世界に持ち込むことは、AJの美学に反してしまう。6日から始まる国の威信を懸けた真剣勝負。監督という使命を果たすためにも、沈着冷静なポーカーフェイスを貫き通す。

(佐藤直子 / Naoko Sato)

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