あと1球から…まさかの大逆転負け「何も考えられない」 歴史的1勝を逃したニカラグア、悲劇の中に見た光

  • 佐藤直子 2026.03.09
  • 海外
逆転サヨナラ3ランを浴び、マウンドに座り込むニカラグア代表のアンヘル・オバンドー【写真:ロイター】逆転サヨナラ3ランを浴び、マウンドに座り込むニカラグア代表のアンヘル・オバンドー【写真:ロイター】

前評判は圧倒的なオランダ有利も…球場の観客は9割がニカラグア支持

 悲願のWBC初勝利まで、あと1ストライク——。米フロリダ州マイアミが舞台の2026 ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)1次ラウンドのプールDで戦うニカラグアは、指先でかすかに触れた勝利を掴み取ることができず。一瞬で流れが変わってしまう野球の怖さと奥深さを、嫌というほど思い知らされた。

 7日(日本時間8日)に行われたオランダ戦。現役メジャー選手がチームの主軸をなすオランダに対し、チームの約7割が国内リーグを主戦場とするニカラグアとあって、下馬評ではオランダを推す声が圧倒的に多かった。

 だが、いざ試合が始まってみると、1万6000人を超える入場者の9割がニカラグア応援団。チームカラーの青と白で染まるスタンドは、ホームチームそのものだ。その熱気溢れる応援に応えたのが、先発マウンドに上がったエラズモ・ラミレス投手だった。

 33歳左腕はメジャー通算43勝の経験を生かした力投を披露。3回1死満塁から死球で1点を献上するも追加点は許さず。5回を5安打1失点に締めくくると、スタンドに集まった1万人を超えるニカラグアファンに向かって「バモス! バモス!(いくぞ! いくぞ!)」と両手を広げてアピールしてみせた。

ソフトバンクのダウンズが攻守で活躍…8回には勝ち越し2ラン

 ベテランの奮闘に打線も呼応する。5回に満塁から押し出し四球で同点に追いつくと、7回にも満塁の好機。ここは得点できずに終わったが、その裏にはソフトバンク所属のジーター・ダウンズ内野手が二塁で超美技。オランダの攻撃の芽を摘むなど、試合の流れは確実にニカラグアに傾いていた。

2ランを放ち、雄叫びをあげながらダイヤモンドを一周するジーター・ダウンズ【写真:ロイター】2ランを放ち、雄叫びをあげながらダイヤモンドを一周するジーター・ダウンズ【写真:ロイター】

 そして迎えた8回。2死から死球で勝ち越し走者が出たところで、打席を迎えたのがダウンズだ。豪快なスイングで捉えた打球は左中間フェンスを越える勝ち越し2ランに。雄叫びをあげながらダイヤモンドを一周すると、ベンチから飛び出したチームメートにもみくちゃにされた。勝利の女神の背中がおぼろげに見えてきた。

国を挙げて願うWBC初勝利、勝つために招聘したメジャー名将

 WBC本戦に初めて出場した2023年は、1次ラウンドで4戦全敗。今大会の目標に「まず1勝」を掲げると、代表チームでGMを務めるジョージ・サンティアゴ氏は、長年の友人でメジャー通算2183勝を誇るダスティ・ベイカー氏に監督就任を依頼。勝つためのチーム作りに尽力した。WBC初勝利は全国民の願いでもある。

メジャー通算2183勝を誇るダスティ・ベイカー監督【写真:ロイター】メジャー通算2183勝を誇るダスティ・ベイカー監督【写真:ロイター】

 悲願達成まで、あと3アウト。6回途中から3番手として登板し、オランダ打線を封じてきた右腕アンヘル・オバンドーはテンポよく2死を奪った。続くセダン・ラファエレ外野手も2度のファウルで2ストライクに追い込む。あと1ストライク。ここで勝利が脳裏をかすめたのかもしれない。ラファエレに中前打を許すと、ザンダー・ボガーツ内野手の打球は三塁ベースに当たって左翼へ抜ける二塁打に。勝利のチャンスは一気にピンチへと転じた。

 マウンドに選手が集まり、呼吸を整える。2点リードの9回2死二、三塁。ここでベイカー監督は満塁策をとらず、迎えたオジー・アルビーズ内野手との勝負を選択。オバンドーが投げた初球は、アルビーズのバットに捕まり、逆転サヨナラ3ランとなって右中間スタンドに消えた。

ダウンズ、歴史的勝利を逃し「正直何も考えられない」

 試合後、記者会見場にやってきたベイカー監督は「チームだけではなく国にとっても、痛みを伴う負けになってしまった」と声を落とした。ニカラグア報道陣から「経験豊富な監督として、チームやファンが立ち直るためのアドバイスはあるか?」と問われても、「傷口を舐めてでも、明日に備えて準備するしかない。とはいえ、これは堪えるよ」と繰り返すだけ。歴史的な勝利の立役者になるはずだったダウンズも「正直何も考えられない」と言葉少なだ。

 ただ、歴史的な勝利に触れた感覚は確かに残っている。ダウンズは「チームに芽生えた絆は素晴らしい。同じユニホームを身にまとい、エネルギー満点で、最高な雰囲気で戦っている。ファン、家族、友達の前で誇りを持って戦い、勝負を楽しめている。そこが大事だと思うんだ」とWBCの舞台を楽しんでいる。

 先発を務めたラミレスは勝てなかった悔しさに触れながらも「野球は27個目のアウトを取るまで何が起きるか分からない。でも、若い選手たちは勝てる自信をつかんだはずだ。だって、あと一歩だったんだから」と、悲劇の中に差す光を見た。

 この日の敗戦がニカラグア野球にとってどんな意味を持つのかは、まだ分からない。だが、10年後に振り返った時、大きな躍進のきっかけとなっていることを願いたい。

(佐藤直子 / Naoko Sato)

RECOMMEND