イスラエル代表で唯一の“イスラエル生まれ” 写真に映るミサイルの影…“プロ1号”がWBCに託す願い

  • 佐藤直子 2026.03.10
  • 海外
イスラエルで生まれ育ったアサフ・ローウェンガート【写真:佐藤直子】イスラエルで生まれ育ったアサフ・ローウェンガート【写真:佐藤直子】

2020年東京五輪、2023&2026年WBC出場の外野手ローウェンガート

 ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)には2017年から3大会連続出場をしているイスラエル。8日(日本時間9日)にはニカラグアを5-0と封じ、今大会1勝目を飾ると同時に、次回大会への出場権を手に入れた。

 イスラエル代表選手の大半はユダヤ系アメリカ人で、アメリカで生まれユダヤ文化の影響を受けて育ってきた。オリオールズで活躍する右腕ディーン・クレーマーもその1人。カリフォルニア生まれながら両親はイスラエル人であるため、ヘブライ語を話すことができ、イスラエルに住む親族も多い。

 ユダヤ教が持つ歴史的背景もあり、世界各地にユダヤ系コミュニティが形成されているが、特にアメリカのコミュニティは規模が大きく、イスラエルに次ぐ2番目の大きさを誇るという。それだけに今回もイスラエル代表30選手のうち、実に29選手がユダヤ系アメリカ人。イスラエルで生まれ育ったのは、アサフ・ローウェンガート外野手の1人だけだ。

 ローウェンガートは現在、フリーエージェントとして所属先を探しているが、米独立リーグのニューヨーク・ボールダーズなどでプレーした経験を持つイスラエル出身として初めてのプロ選手。次世代のために新たな道を切り拓く“パイオニア”でもある。

 およそ1000万人が住むイスラエルでの野球人口は600人ほど。「小さいけど絆の強いコミュニティなんだ。Tボールをする子どもから、トップリーグでプレーする選手まで、みんなが仲間。僕が野球を始めた頃に比べたら、球場の数が増えたり、リーグやチームの数が増えたり、環境は圧倒的に改善されてきたよ」と説明する。

11歳のころ、テレビで観たMLBのプレーオフ「本当にカッコよくて」

 体を動かすことが大好きだったローウェンガートは、幼い頃からバスケットボールをしたり、水泳をしたり、様々なスポーツに親しんできたが、11歳の秋、偶然テレビで観た「野球」というスポーツに興味を惹かれた。

「多分、10月だったんじゃないかと思うんだ。テレビで流れていたのは、MLBのプレーオフだったから。ルールは良く分からなかったけど、打って、投げて、守って、走って、真剣勝負をする選手たちが本当にカッコよくて。すぐ両親に『野球がしたい!』ってお願いしたんだ」

「自分でチームを探してくれば練習の送り迎えはしてあげる」と両親に言われ、無理を承知で探してみたら、ガザのキブツにあった。初めてみると楽しくて仕方ない。コーチに教わったことができるようになると、また新しいことを教えてくれる。気が付くと、野球にドップリとハマっていた。

 本場で野球を続けたいと思い、米ペンシルバニア州にある大学に入り、野球部の門を叩いた。大学卒業後は米独立リーグで2シーズンプレーし、現在に至る。昨冬はオーストラリアでウインターリーグにも参加した。メジャーまでは手が届かなかったが、アメリカでプロ選手になることは夢のまた夢ではない、努力すれば叶う目標だということを、自分の姿を通じて感じてほしいと願う。

緊迫の中東情勢…現地に駆けつける予定だった両親は訪米を取りやめ

 子どもの頃からメジャーリーガーになることを目標としてきたが、2020年の東京五輪、2023年のWBCにイスラエル代表として出場し、考え方が少し変わった。「メジャーリーガーになればイスラエルの誇りになれると思っていたんだけど、代表チームでプレーすることもまた、イスラエルの誇りでもある。メジャーが難しいなら、代表としてWBCに出ることを目標にしようと思ったんだ」。念願叶って、今回もイスラエル代表ユニホームに袖を通している。1勝を挙げ、野球界にイスラエルの存在をアピールできたと感じている。

ローンデポ・パークで行われたニカラグア戦を前に、国歌演奏を聞くイスラエル代表の選手たち【写真:ロイター】ローンデポ・パークで行われたニカラグア戦を前に、国歌演奏を聞くイスラエル代表の選手たち【写真:ロイター】

 1つだけ残念なことがある。両親がイスラエルからマイアミまで応援に来る予定だったのだが、最近の中東情勢を受けて訪米を取りやめたことだ。自宅でテレビ観戦する写真を父が送ってくれたのだが、背景の窓の奥には空を飛び交うミサイルが写っていたという。

「もちろん大変な時だし、心配ではある。でも、今に始まったことではないし、物心ついた頃からいつも何かが起きていた。これもまた人生。僕は国の代表として野球に励み、野球の力を通じて次世代の子どもたちにとっていいロールモデルになれたらうれしいね」

 国を守るために兵士になることも考えていたという子どもは今、スポーツを通じてイスラエルに住む人たちの心に平和をもたらすことを考えている。

(佐藤直子 / Naoko Sato)

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