イタリア代表に浸透させる“日本人選手の姿勢” 元オリ助っ人の「いつも心の中に」…最高の教材と「カモにされた」打者【マイ・メジャー・ノート】

  • 木崎英夫
    木崎英夫 2026.03.13
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投手コーチとしてイタリア代表を支えるアレッサンドロ・マエストリ氏【写真:木崎英夫】投手コーチとしてイタリア代表を支えるアレッサンドロ・マエストリ氏【写真:木崎英夫】

イタリアで生まれ育った初のメジャーリーガーが、コーチとして投手陣をサポート

 ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)は13日(日本時間14日)から佳境に入る。今大会優勝候補のアメリカを撃破し勢いに乗るイタリアは、前回大会4強のメキシコも破り1次ラウンドのプールBを1位で通過。準々決勝で始まる決勝トーナメントでも台風の目になる可能性がある。

 11日(同12日)のメキシコ戦でWBC新記録の1試合3本塁打を放った、チームリーダーのビニ―・パスカンティーノの復調は大きい。初戦から続いていた無安打の重圧をはねのけ、大事な決勝ラウンドを前に心技で牽引力を高める。

 投手力も明るい材料が生まれた。強敵アメリカを相手にマイケル・ローレンゼン(ロッキーズ)が、5回途中を無失点の力投。メキシコ戦ではアーロン・ノラ(フィリーズ)が、5回を投げ4安打無失点の好投を演じた。「防御率0点コンビ」の躍動は、若手の多い中継ぎ陣の負担を軽減した。

 試合を作る上で重要な投手力。イタリア代表には、日本野球から大いに学び投球術を養ったコーチがいる。イタリアで生まれ育った初のメジャーリーガー(2006年カブスと契約)で、2012年から2015年までオリックスに在籍したアレッサンドロ・マエストリ氏だ。アメリカと日本以外に母国イタリア・リーグや韓国、オーストラリア、メキシコでの球歴を持つ。そのマエストリ氏が投手としてかけがえのない時間を過ごしたのが日本である。

「日本の選手がすべてに対して持っている敬意、それが一番好きです」

「私のキャリアは国際色豊かです(笑)。でもその中でも、日本の野球は最も高いレベルにあったと思います。一番にお話ししたいのが、人に対しての敬意です。本当にそう思っています。日本の選手がすべてに対して持っている敬意、それが一番好きです。相手の選手に対して、そして野球というゲームに対して。それは間違いなく、私がいつも心の中に持ち続けるものになりました。その中には、自分よりも多くの年を重ねている人を常に敬うことがあります。いま、私が若い選手たちに教えようとしていることでもあるんです」

 イタリアンアクセントの英語が、耳に染み込んでくる。物腰柔らかな口調のマエストリ氏は、本題に入った。

「後にメジャーに来た世界的なレベルにある打者たち相手に投げるために、私はデータに頼ることなく賢くならなければならなかった。ですから、一緒にプレーした優秀なピッチャーたちを生きた教材にして勉強しました。彼らがどのように自分の体をコントロールするか、どのように自分のボールをコントロールするか。で、私の観察眼が得たのは、いい投手は投げるときにほとんど力を使っていないように見えました。無駄がないんですね。私が本当に感心していることです」

オリックス時代のアレッサンドロ・マエストリ氏【写真提供:産経新聞社】オリックス時代のアレッサンドロ・マエストリ氏【写真提供:産経新聞社】

 力任せに投げる投手が多いアメリカとは違い、マエストリ氏は日本人投手の特徴として捉える力みのないフォームから繰り出す質の高い球に研究心を煽られた。身近にいる投手を参考にしたと言うが、誰なのか――。

「私は恵まれていました。周りにはいいピッチャーが沢山いましたから。まず、カネコさん! キシダさんもね! そして、今も投げているヒラノさん‼︎ 他にもまだまだいっぱいいましたよ。マウンドから投げる彼らを見て、どのようにフィニッシュまでを作っているのかって。映像でも研究しました。彼らは最高の教材でした」

NPB時代の大谷翔平との対戦は「打たれたかどうかを忘れてしまうくらいのインパクト」

 きめ細やかな配球も日本で意識の中に植え付けたというマエストリ氏に、印象的な打者について聞いた。

「私は、右打者に対してはいい感じでしたが、左打者には少し苦しみました。感性を生かしたキャッチャーのサインに従ってもずっとカモにされたのが当時ライオンズにいた小柄なキャッチャーの……そう! モリですよ。なぜかいつもやられっぱなし。コンパクトなスイングでパンチ力がありましたよね。はっきり言って、苦手な打者。でもそうやって左の好打者たちに苦しめられたことが、今は選手に教えられる経験値を高めました。だからいい経験をさせてもらったということですね」

森友哉に本塁打を浴びるマエストリ(2014年)【写真提供:産経新聞社】森友哉に本塁打を浴びるマエストリ(2014年)【写真提供:産経新聞社】

 右投手にとって左打者の攻略は永遠のテーマでもある。身長170センチの森友哉(現オリックス)が苦手打者の1人であったとすれば、聞かずにはいられない。大谷翔平はどうだったのだろうか。

「彼は高校から来て間もない頃から、私がオリックスを離れる3年の間に何度か対戦しています。当時はまだ体が細かったんですが、二刀流をこなして、そりゃもう強烈な印象を受けましたよ。打たれたかどうかを忘れてしまうくらいのインパクトでしたから、モリ以上の記憶はないというのが正直なところです」

 快進撃中のイタリア代表の投手陣を日本的な投球感性で見守るアレッサンドロ・マエストリ氏。フォーカスするのは次のプエルトリコ戦だが、「日本代表と戦うことになればそれは夢の実現です」と口角を上げると、最後は思いの丈を言葉にした。

「それは夢がかなうようなことです。日本代表と対戦できたら、かなりクールですよ。チームの今の戦力を考えるとすごいじゃないですか。私の体験の中で生涯忘れ得ない日本の野球をずっとやってきた彼らと世界の舞台で一騎打ちができるなんで、それは間違いなく夢がかなうようなことです」

 イタリア代表は14日(同15日)、マイアミ行きを懸けてプールA2位のプエルトリコと準々決勝を戦う。マエストリ氏の夢は叶うか――。

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【マイ・メジャー・ノート】
 1995年の野茂英雄の大リーグデビューから取材を続ける在米スポーツジャーナリスト・木崎英夫記者による深堀りコラム。現場での取材からはもちろん、豊富な取材メモから送るエピソードも。コアなMLBファンのための記事を原則週1本配信。

○著者プロフィール
木崎英夫(きざき・ひでお)
1983年早大卒。1995年の野茂英雄の大リーグデビューから取材を続けるベースボールジャーナリスト。日刊スポーツや通信社の通信員を務め、2019年からFull-Countの現地記者として活動中。日本では電波媒体で11年間活動。その実績を生かし、2004年には年間最多安打記録を更新したイチローの偉業達成の瞬間を現地・シアトルからニッポン放送でライブ実況を果たす。元メジャーリーガーの大塚晶則氏の半生を描いた『約束のマウンド』(双葉社)では企画・構成を担当。東海大相模高野球部OB。

(木崎英夫 / Hideo Kizaki)

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