新入部員ゼロで捨てた“執着” 監督も戦った5年間「本当に幸せ」…高知が沸いた歴史的「1」

ベンチから選手に声をかける高知農業・下坂充洋監督【写真:加治屋友輝】
ベンチから選手に声をかける高知農業・下坂充洋監督【写真:加治屋友輝】

21世紀枠で初出場の高知農、1-8で日本文理に敗戦

 初めての甲子園で歴史的な得点が生まれた。第98回選抜高校野球大会は21日、大会3日目が行われ、第2試合では21世紀枠で春夏通じて初出場の高知農(高知)が日本文理(新潟)と対戦。4点をリードされた4回に1点を奪いアルプススタンドを沸かせた。

 0-4で迎えた4回1死一、三塁。6番・栗山典天外野手(3年)は初球のスライダーを積極的に狙った。鋭い打球は一、二塁間を抜けて右前へ。三塁走者が生還し、スコアボードに同校初となる「1」が刻まれた。

 ただ、得点はこの1点のみで1-8で敗戦。それでも同校にとって大きな意味を持つ“1点”を叩き出した栗山は「しっかり引きつけてライト方向に打つイメージでいきました。自分が打って得点が入り、良かったなと思いました」と声を弾ませた。

 ベンチでナインを鼓舞し続けた下坂充洋監督は「大観衆の中でプレーできたのは選手たちにとって財産。最初は緊張していつも通りプレーできていなかったけど、回を追うごとに自分たちのプレーができるようになった」と納得の表情。歴史的な1点を取ったことには「これで終わりじゃない。この1点から高知農だけじゃなく高知県の野球がさらに良くなって、高校野球の人口が増えていければいい」と話すと「同じような境遇の人たちの励みになる1点になれば」と続けた。

 野球人口の減少は身をもって痛感している。そもそも地方の農業高校で全校生徒数が減少傾向にある中、自らの厳しい指導方針も影響し2021年は新入部員が0となり、夏の大会後に3年生が抜けると、部員は2年生の3人だけとなった。単独チームでの試合ができなくなったのだ。

 それまでは平日は午後8時過ぎまで練習。土日や祝祭日は終日練習が当たり前だった。野球部の練習は私立の強豪校並みにハード――。そんな情報が広まり、新入生の希望者が出てこなかったのである。

「変えなくちゃいけない。新入部員が0人となって、指導方法を変えないといけない事情がありました」。それまで1日800回をノルマとしていたスイング数は、100回に再設定。授業前の朝の練習もやめ、量より質を重視する方針に、大きく転換する決断を下した。

日本文理と戦った高知農業ナイン【写真:加治屋友輝】
日本文理と戦った高知農業ナイン【写真:加治屋友輝】

続いた合同チームでの公式戦「踏ん張ってきて良かった」

「とにかく短時間でうまくなることを追求しました。振る数を減らして、野球がうまくなるにはどうすればいいか。振ることよりウエートトレーニングだったり、打つための目のトレーニングをしたり、球種や配球を考える頭のトレーニングもしました。振るのが全てじゃないんですよね」

 その成果もあったのか、2022年には新入生が5人入部。それでも9人に満たず、合同チームでの公式戦参加が続いたが、2023年に5人が入部したことで、再び単独チームで試合に臨めるようになった。

「現場は本当に大変でした。選手も大変ですし、指導している先生方も大変。踏ん張ってきて良かったな、我慢してきて良かったなと思います。当時の3人もそうですし、各世代の選手たちがつないでくれたことが本当に大きいです」

 今大会は出場32校中、唯一ベンチ入りメンバーの上限20人に満たない18人で参加。日本文理との試合では、代打など途中出場を含めて13人が甲子園のグラウンドでプレーした。

 アルプススタンドには、高知を午前4時15分に出発し、バス10台で駆けつけた生徒270人を含む応援団が大声援。下坂監督は「涙が出そうでした。これだけのお客さんの前でプレーできて選手は幸せだと思います。甲子園の試合、本当に幸せでした」と感謝し「これで終わりじゃない。いろんな方に伝えていかないといけない」と今後につなげるのが使命であることを繰り返し強調した。

 試練を乗り越え、チームを再建して初めて出場した甲子園。高知農ナインは自分たちのプレーを最後まで貫き、確かに歴史を刻んだ。

(尾辻剛 / Go Otsuji)

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