東大が9年ぶりに勝ち点獲得 緻密な“頭脳的戦略”…快挙支えた19人ものアナリスト

9年ぶりの勝ち点を獲得した東大【写真:加治屋友輝】
9年ぶりの勝ち点を獲得した東大【写真:加治屋友輝】

盗塁はリーグ最多、犠打は最少「無死一塁と1死二塁の得点期待値変わらない」

 東京六大学野球春季リーグで、東大が9、10日に行われた法大戦に連勝し、2017年秋以来17季ぶりに勝ち点を獲得した。さらに1997年秋以来57季ぶりとなる最下位脱出の可能性も残していて、今月23日から今季最終カードの立大戦に臨む。高校時代に甲子園で活躍した選手もいる他大学と違い、技術レベルでは遅れをとる東大だが、ここにきて頭脳的かつ科学的な方法で、勝利を引き寄せようとしている。他大学にとって決して侮れない存在になりつつある。

 9日の1回戦は、エースの松本慎之介投手(3年)が9回1失点完投し2-1で先勝。翌10日の2回戦では一転、法大投手陣に13安打を浴びせ、8-5で打ち勝った。これまで東大が勝つとすれば、先発投手が一世一代の快投を演じ、1回戦のようにロースコアの展開に持ち込むことが多かった。2回戦のように、得点力を発揮できるようになったところに、東大野球部の進化が表れている。

 今季の東大で特徴的なのは、盗塁の多さと犠打の少なさだ。11日現在、チーム8盗塁はリーグ最多で、2犠打は同最少である。大久保裕監督は「残念ながらウチの打力では、送りバントで1死二塁の状況をつくったとしても、そこからタイムリーがなかなか出ない。それなら、足の速い選手の走力を活かしていこうということです」と説明する。

 10日の法大2回戦で2点ビハインドの3回に同点2ランを放ち、勝ち点獲得の立役者の1人となった長谷川優外野手(2年)が、こう補足する。「東大の場合、無死一塁でも1死二塁でも、得点期待値は変わりません。しかし無死一塁と無死二塁なら、圧倒的に無死二塁の方が高い。それなら少しリスクを冒してでも、盗塁してみようということです。特に今年は堀部(康平)キャプテン(4年)の足が速く、そういう人が真ん中にいてくれるお陰で、チームみんなで走ろうという意識や盗塁の技術が磨かれていると思います」。

「スキルで圧倒的に劣るのだから、フィジカルでは同じ土俵に立とう」

 こうした戦術を立てる上で、大きな役割を果たしているのが、19人ものアナリストの存在だという。長谷川は「最近はアナリストの方がどんどん大所帯になっています。セイバーメトリクスなどを使って様々なデータを収集・分析してくれて、しかも、それを視覚的にわかりやすく説明してくれるので、めちゃくちゃありがたいです」とうなずく。

 昨年から本格化したVR(ヴァーチャル・リアリティ)の活用も、効果を上げている。リーグ戦で対戦する相手投手のデータを入力し、専用のゴーグルを装着すると、実際に打席に立っている感覚で投球が目の前に再現されるという“優れもの”だ。長谷川は「VR導入2年目で、使い方がわかってきました。僕は個人的には、VRに100%頼るのではなく、VRの映像を頭の隅に置いた上で、実際の打席での感覚とすり合わせることが大事かなと思います」と語る。

 “肉体改造”の成果も著しい。東大の選手は昨秋の段階で、BMI(体重と身長から算出される肥満度の指標)の数値が東京六大学で最も理想値から遠く、線が細かったことから、トレーニングコーチが「野球のスキルのレベルは圧倒的に他大学が上なのだから、せめて、フィジカルだけでも同じ土俵に立とう」と号令をかけたという。

 長谷川は「冬の間はどんどん食べて体重を増やし、力をつけることに努めました。今季開幕直前の時点では逆に、東大のBMIがトップになった(最も理想値に近い)と聞いています」と手応え十分。「僕はチームではあまり増えていない方ですが、それでも冬の間に3キロ増えて76キロになりました」と付け加えた。今季の東大がチームで既に3本塁打を放っているのも、パワーアップの証しだろう。

 最先端機器の導入、データの精密化・多様化などで、野球をめぐる環境は近年激変している。“弱者の兵法”に磨きをかける東大にも、付け入るスペースがありそうだ。

(宮脇広久 / Hirohisa Miyawaki)

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