中学公式戦0HR→1年夏に2打席連発 怪物の忘れぬ“後悔”…涙から1年、挑む最後の戦い

豪快スイングで脚光、東東京のシード校の淑徳・岩橋和志外野手(3年)
第108回全国高等学校野球選手権大会東・西東京大会が4日に開幕する。2年前の夏、淑徳(東東京)でベンチ入りを果たした1年生が、いきなり2打席連続で本塁打を放つ場面があった。衝撃のデビューから2年。今夏をシード校として戦う淑徳(東東京)の強打の2番、岩橋和志外野手(3年)は最後の夏を迎える。豪快なフルスイングが魅力のスラッガーだが、中学の硬式チーム時代は控え選手で、本塁打は0本。岩橋を支えたものは、一体、何だったのか――。その姿に迫る。
身長180センチ、体重78キロ。堂々たる体躯から豪快なスイングを振り抜き、高校通算本塁打は13本を数える。その存在は東東京に広く知れ渡る。だが、原点をたどれば、現在の姿からは想像もつかない。所属していたのは全国屈指の強豪・東練馬シニア。周囲には後に強豪校の主力となるエリートがひしめき、線の細かった岩橋は、その中に完全に埋もれていた。
中学時代は「Bチーム」。出場記録は驚くほど控えめだった。公式戦は代打を含めても2、3試合の出場。打席数は通算で3、4打席と記憶している。その中で放ったヒットは1本。打率は1割台で、本塁打は0本だった。「練習についていくだけで必死すぎて……自分を客観的に見る余裕なんてありませんでした」。自分たちの代の大会が終わったとき、高校で野球を続けるかどうか、本気で迷ったほどだった。
それでも「このまま終わりたくない」という思いが、岩橋を奮い立たせた。やめるにしても、自分が満足できる形で終えたいと思った。中学3年夏にチームを引退してから高校入学までの数か月、かつてない猛練習に身を投じる。最も身近で支えたのは、父だった。父と2人で、時に1人で、ほぼ毎日バットを振り、フォームを一から見つめ直した。
動画を研究し、試しては直す。泥臭い反復の果てに、父とともに手探りで作り上げたのが、いまや代名詞となる独特の構えと縦振りのスイングだ。バットをあらかじめ肩に乗せ、力を抜いた状態から、すくい上げるように縦へ振り抜く。「高校で活躍できた最大の要因は、あの引退から入学までの期間。基礎を徹底的にたたき込めました」。個性的なスイングの原型は、この冬に完成した。
進学先に選んだのは、東練馬シニアとつながりがあり、先輩も在籍していた淑徳だった。入学直前の練習試合で高校1号を放つと、1年夏には守備を買われて、早くも外野のスタメンに定着。そして聖地・神宮で、東京中を驚かせる。1試合2打席連続本塁打という、鮮烈なデビュー。「公式戦で2打席連続を打ったときは、自分自身が一番びっくりした」。
この才能を一気に開花させた背景には、淑徳を率いる中倉祐一監督の存在があった。独特なフォームは、指導者によっては「直せ」と矯正されてもおかしくない。だが、淑徳の指導者たちは、一切いじらなかった。「僕の感覚を一番大事にして、自由にやらせてくれた。違う学校なら、フォームを変えられていたかもしれない」。長所を信じて伸ばすその姿勢が、自信を失いかけた怪物を解き放った。

「僕の三振で、先輩たちの夏が終わった」
順風満帆とはいかなかった。鮮烈なデビューは、同時に重い期待とプレッシャーを連れてくる。昨夏は打撃の調子を落とし、初めてスタメンを外された。「1年のはビギナーズラックだったと思われているのではないかと不安で……。期待に応えられず、自信をなくして、かなり悩みました」。
本当の試練は、昨夏の東東京大会準々決勝の修徳との一戦で訪れた。試合の命運を分ける場面で、相手3年生投手と対する打席が回る。「それまでは、最悪三振でもいいくらいの気持ちで入ることが多かった。でも、相手投手の絶対に負けられないという気迫を前に、自分の甘さを痛感した」。
最後の球はスライダー。空振り三振で、試合は終わった。「僕の三振で、先輩たちの夏を終わらせてしまった。あの悔しさと、最後のスライダーの軌道は、今でも忘れられないです」。泣き崩れたあの打席を境に、岩橋の意識はがらりと変わる。自分が打たなければ、チームは勝てない。
覚悟は、別人のようだった。苦手だったウエートトレーニングにも自ら進んで励み、同級生と競い合いながら身体を鍛え抜く。体重は増え、打球はさらに飛び、戦い抜くスタミナもついた。
かつての自分のように、中学で苦しみ、高校で野球を続けるか迷う球児へ。少し照れながら、確かな口調で言葉を継いだ。「中学時代の成長スピードは人それぞれ。すごい選手に囲まれると焦るけど、中学が野球人生のすべてじゃない。高校、その上のステージで活躍することだってできる。今の立ち位置なんて気にしなくていい。腐らずに、自分を信じて続けてほしい」。
公式戦わずか1安打から這い上がり、東東京を代表するスラッガーへ。岩橋を変えたのは、父と刻んだ冬の時間であり、感性を信じてくれた指導者であり、悔し涙の先でつかんだ覚悟だった。最後の夏の目標は、1年時を超える3本以上の本塁打。「ピンチでもチャンスでも、岩橋に回ってきてよかったと思ってもらえる打者でありたい」。仲間と監督、そして父への恩返しを胸に、怪物の集大成の夏が、いよいよ幕を開ける。
(豊嶋彬 / Akira Toyoshima)