153センチの1年生が掴んだ強豪の“定位置” 並んだ言葉…汲んだ母の思い「ずっと悩んでいたと」

淑徳・谷津遼太郎内野手、153センチの1年生レギュラー…小さな三塁手の夏
第108回全国高等学校野球選手権大会東・西東京大会が4日に開幕する。入学からわずか2か月。身長153センチの淑徳(東東京)・谷津遼太郎内野手(1年)が、第3シード校のレギュラー三塁手の座をつかんだ。中学時代の主戦場は、守備固めと三塁ベースコーチ。「体が小さい」という理由だけで、悔しさを味わってきた。この夏の東京大会で、最も小さな選手かもしれない。その少年は、なぜ前を向けるのか――。
弱小チームでも、部員が足りないわけでもない。東東京第3シードの実力校で、1年生がつかんだ定位置。中学時代の谷津は、2番手の二塁手。公式戦は守備固めが中心で、主戦場は三塁ベースコーチだった。「なんで自分は大きくなれないんだろう、もっと体が大きければ試合に出られたかもしれない、と中学まではずっと引け目を感じていました」。体が小さいというだけで、スタートラインにすら立てない悔しさを抱えていた。
その運命を変えたのは、淑徳の練習体験会での出会いだった。1学年上の浜田拓輝(はまだ・ひろき、2年)は、1年生だった昨夏「1番・遊撃」で2回戦で6打数5安打7打点と躍動した。身長は160センチほどと小柄ながら、大舞台で輝く先輩。その姿に、谷津は衝撃を受けた。「体が小さくても、高校野球で活躍できるんだ。目の前でそう証明された気がして、心の壁が音を立てて崩れました」。
自主性を重んじ、1人ひとりの長所を伸ばす淑徳の環境は、谷津にとって最高の道しるべとなった。入学後、彼は中学未経験だった三塁の定位置を、1年生でつかんだ。当初は戸惑いもあったが、守備での動き方を淑徳・中倉祐一監督が一つひとつ授け、先輩たちもアウトのたびに声をかけてくれた。「自分でいいのかな」という不安は、少しずつ消えていった。
起用の理由は、巧みなハンドリングと、何より高い「野球脳」にあった。その土台は、皮肉にも、悔しさを噛みしめた三塁ベースコーチの時間にある。「ただ立っていたのではなく、次の打者は誰で、走者をどこまで返していいか、毎試合ずっとシミュレーションしていました」。出られない時間を愚痴で終わらせなかった少年は、打席でも役割に徹する。長打ではなく、確実に走者を進め、上位打線や1番の浜田へつなぐ。それが谷津の仕事だ。

164センチの西武・滝澤に「すごく勇気をもらいました」
谷津がこうして前を向けるのは、誰よりも息子の体を案じ、支えてきた母の存在があるからだ。ある日ふと目に入った母のスマートフォン。そこに並んでいたのは、「身長が伸びる方法」「アスリートに必要な栄養」――。そんな検索ワードの数々だった。「身長のことは、お母さんもずっと悩んでいたと思います」。
少しでも息子の体を大きくしたい。母の切実な願いは、毎日の食卓に詰まっていた。野菜をたっぷりとれるようブロッコリーを多めに、ハムは無添加のものを選んでくれた。「朝はあまり食べられないほうなんですけど、一生懸命考えて出してくれるごはんだから、最近は頑張って食べています」。先日の血液検査では、うれしい結果も出た。「僕はまだ成長期が来ていないみたいで……。これから伸びる可能性もある。そこがすごく楽しみなんです」。
母が自分のために必死になってくれる姿を、谷津は目に焼き付けている。「1年生で試合に出られていること、お母さんは心の底から喜んでくれている。悔しい思いをさせてきた分、少しでも恩返しができているなら、うれしい」。憧れは、西武の滝澤夏央内野手。164センチと球界最少クラスの体ながら、育成から支配下をつかんだ内野手だ。「同じように体が小さくても、プロで輝ける。すごく勇気をもらいました」。小学校の卒業式では「子どもたちに夢を与える選手になりたい」と宣言した。今度は自分が、誰かの滝澤夏央になる番だ。
体が小さいというだけで、好きな野球を諦めかけている子へ。わが子の成長に不安を抱える親へ、谷津は力を込める。「まずは自分だけの強みを見つけて、そこに自信を持ってほしい。小さくても、大きい選手にはできない素早い動きや、頭を使ったプレーが絶対にできる。大きい相手に負けてたまるか、という気持ちでプレーしてほしいです」。
初めて迎える夏。視線は、まっすぐ憧れの聖地・神宮へ向く。「不安もありますけど、あの舞台で三塁を守って勝つんだという楽しみのほうが、はるかに大きいです」。試合に出られる喜びを、誰よりもかみしめている。
最後にこれからの成長について尋ねた。高校生の身長も、いつ伸びるなんて分からない。谷津は少しはにかんだ。「次に会ったら、大きくなっているかもしれませんよ」と笑った。
(豊嶋彬 / Akira Toyoshima)