ライバルに「失投してくれ」も…引退した“史上最速右腕”の本音 切磋琢磨した日々、DMで託した夢

球速130キロを計測した巨人女子チームの清水美佑【写真:喜岡桜】
球速130キロを計測した巨人女子チームの清水美佑【写真:喜岡桜】

秘めたポテンシャルが開花していく女子選手…6月には国内最速133キロを計測

 女子野球界の進歩をライバルに託していた。今年4月、読売巨人軍女子チームのエース右腕・清水美佑投手によって、女子野球の公式戦において史上初となる球速130キロが計測された。それまで国内女子最速の129キロを誇り、2024年いっぱいで現役を引退した元阪神タイガースWomenの森若菜さんは、歴史的な記録更新をどう受け止めたのだろうか。

 愛知ディオーネなど女子プロ野球リーグでもプレーした森さんは、2008年に当時の国内女子最速の126キロをマークすると、日本一速いボールを投げる投手として注目され、積年の夢でもあった130キロまであと1キロに迫る129キロを2021年に記録。2024年に現役を引退するまで女子野球界をリードした右腕だ。

 そんな森さんが6月27日に甲子園球場で行われた阪神タイガースWomenと読売ジャイアンツ女子チームによる試合を観戦していた。ゲームから目を逸らすことなく「130キロ出ていましたね。SNSで知りました」。マウンドに清水があがると鋭い視線を送った。

「現役中なら悔しかったと思います。けど、もう私は引退しているので。今は素直に『おめでとう』という気持ちですね。それに引退するまでは私が最速でしたから」。そう語ると、続けて、清水だけには他と異なる強烈な対抗心を燃やした日々を明かした。

「私、めちゃくちゃ清水に対してライバル意識がすごくて。近くの球場で清水が投げているときは必ず見に行っていましたね。心のどこかで、ミスしてくれないか、失投してくれないかと思ったことが、何度もありました。研究もしましたよ。清水の調子がいいときも、悪いときも、誰よりも見ているって言えます」

球速133キロを計測した巨人女子チームの桑沢明里【写真:喜岡桜】
球速133キロを計測した巨人女子チームの桑沢明里【写真:喜岡桜】

世代屈指のピッチャーとして火花を散らした2人…引退時にでてきた特別な感情

 同じ1998年生まれ。森さんは福知山成美、清水は埼玉栄のエースだった2016年に、2人はまだ高校3年生ながら日本代表の候補に選ばれ、セレクションの最終選考に残った。だが代表ユニホームを着られたのは清水だけだった。ライバルは日本代表唯一の現役高校生として注目を浴び、投手陣の柱として世界一に貢献する活躍をみせた。

 心底悔しかった。「(清水は)日本代表に選ばれて、すごいピッチャーだってことは分かっているんですけど、絶対に負けたくなかったんですよね」。しかし、森さんはケガの影響もあり先に現役生活にピリオドを打つ。するとこんな思いが生まれたという。

「絶対に清水が、最初に130キロを出してくれ」

 自分の記録を超えていく者がいるなら、それは宿敵がいい。森さんは「速球派ピッチャーと言ったら、悔しいですがやっぱり清水が1番上なんです」と語気を強めた。「現役中は負けたくなかったんですけど、引退してみると、清水に1番最初に130キロを投げて欲しいとしか思えなくて」。日本一の球速を誇った右腕は引退時に、清水へDMで夢を託した。

 それから約1年半。清水が130キロを投げ、史上初の大台到達を果たした。すると5月には同じ読売ジャイアンツ女子チームの入団2年目・桑沢明里投手が130キロを計測。さらに森さんがスタンドから目を向けていた「伝統の一戦」にクローザーとしてマウンドに上がると、国内女子最速球速を133キロへ更新した。両軍ベンチ、スタンドはどよめいた。

 森さんは言う。「最初に130キロを(清水は)投げてくれましたから。もう数字はいいです。あとは現役生活を続けていく上で1番怖いのがケガなので、無理をすることなく長くプレーしてほしいですね」。レジェンドの顔がやっと和らいだ。これからも女子選手による挑戦は止まらない。さらに女子野球界全体はスキルアップしていくことだろう。

(喜岡桜 / Sakura Kioka)

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