関東第一のエースを支える「勇者」の2文字 両親を亡くした先輩が“帽子”に託した思い

昨夏甲子園8強左腕から受け継いだ"勝負帽子"…つばの裏に刻まれた「勇者」
第108回全国高校野球選手権東東京大会は27日に神宮球場で決勝が行われ、関東第一が10-4で二松学舎大付を下し、3年連続11回目となる夏の甲子園出場を決めた。エース左腕・石井翔投手(3年)が112球を投げ、10安打4失点で完投勝利。歓喜のマウンドでかぶっていた紫色の帽子には、昨夏の甲子園をともに戦った先輩から受け継いだ“特別な思い”が込められていた。
帽子のつば裏に刻まれているのは、「勇者」の2文字。その帽子を石井に託したのは、昨夏の甲子園でベスト8入りを果たした関東第一の左腕で、現在は中央大でプレーする坂本慎太郎選手だ。坂本さんは小学4年時に母・雪子さん(享年55)と死別し、高校2年の12月には父・三男さん(享年75)を脳出血で亡くした。それでも悲しみを乗り越え、昨夏の東東京大会決勝では9回1失点の快投。甲子園でも投手陣の一角として8強入りに貢献した。中学時代に取手リトルシニアでともにプレーした石井にとっては、当時から背中を追い続けた憧れの先輩だった。
帽子を受け取ったのは、昨夏の甲子園で敗れた夜の宿舎だった。「お前が頑張れよ。まずは秋優勝して、甲子園へ行けよ」。そんな言葉とともに、坂本さんは自らがかぶっていた帽子を後輩へ手渡した。石井は「今被ってる帽子も坂本さんから貰った帽子なので、そういう思いも継いでしっかりと投げようと思いました」と明かす。
昨秋から公式戦では常にその帽子を着用。「坂本さんから貰った帽子っていうのは、結構縁起がいいっていうか。この帽子をつけていたら抑えられるんじゃないか、そのくらいの気持ちでやっていました」と絶大な“信頼”を寄せる。さらに「秋からずっと被っています。これを被ってたら負ける気はしなかったんで」「この帽子を被った時はいいピッチングができているんで」と、自身にとって”勝負帽子”になっていることを明かした。帽子の裏に書かれた「勇者」の意味については、「いや、わかんないっす」と照れ笑いを浮かべた。

9回無死満塁…頭に浮かんだ昨夏の先輩「本当にすごいんだな」
決勝当日も、坂本さんは神宮球場へ応援に駆けつけた。試合前には「頑張れ」「低めに投げろよ」と声を掛けられ、石井は「『頑張ります!』って言いました」と笑顔。一方で、「低めに投げろよ」という助言については「できませんでした」と苦笑い。それでも、優勝目前の9回に無死満塁のピンチを招いた時は、先輩の姿が頭に浮かんだという。
「あの場面で坂本さんのことを思い浮かべたんですけど、あそこでゼロで打ち取った坂本さんは本当にすごいんだなって改めて実感しました」。昨夏の東東京大会決勝で同じように9回を投げ抜いた先輩を思い浮かべながら「ランナーを気にせず投げよう」と気持ちを切り替え、最後までマウンドを守り抜いた。
帽子を託した坂本さんも、後輩の成長を誇らしく見つめていた。「自分が渡せるのはグラブか帽子ぐらいだったので。それで活躍してくれればいいなという思いでした」と理由を明かす。「勇者」の2文字についても、「立ち向かうというか、一番になるために、ヒーローになるために書きました」と言葉に込めた思いを表した。
石井が今もその帽子をかぶり続けていることを知ると、「率直にうれしいです。それで勝ってくれれば、優勝してくれればいいなと思います」と目を細めた。昨夏届かなかった日本一の夢を後輩へ託した先輩は、甲子園へ挑む石井にエールを送った。
「気負いすぎずに、自分のできる限りのプレーをやってくれればいいかなと思います」。先輩から受け継いだ「勇者」の帽子をかぶり、関東第一の新エースは悲願の日本一を目指して聖地のマウンドへ上がる。
(横井洸太 / Kota Yokoi)