天国の母に「力を貸してほしい」 家族一同で掴んだ甲子園…残した聖地への“忘れ物”

八幡商2年・中村旺輔は特別な思いで甲子園に臨んだ
天国の母に成長した姿を届けた。第108回全国高校野球選手権大会は7日、甲子園球場で1回戦4試合が行われ、八幡商(滋賀)が健大高崎(群馬)に1-7で敗れた。「5番・指名打者」で出場した中村旺輔(2年)は3打数無安打に終わったが、天国の母、支えてきてくれた家族に感謝の思いを伝えた。
中村が小学4年生の時、母・智子さんが長い闘病生活の末に他界した。父・裕治さんによると、智子さんは体調が悪化してからも息子の野球を気にかけていたという。「最後の最後まで息子の野球は見に来たかったみたいです」。
母を亡くしてからは、裕治さんとの父子家庭で野球を続けた。ただ、父には仕事があるため、練習や試合の送迎に協力したのが母方の祖父・次郎さんだった。少年野球の頃から、中村が打ち込める環境を整えてきた。
中村もその支えを忘れていない。「おじいちゃんに頼るしかなくて」。祖父は自身が忙しい時にも都合をつけてくれたといい、「高校までずっと支えてくれたおじいちゃんには感謝しかないです」と語る。裕治さんも「おじいさんがいなかったら多分、今がないと思います」と感謝する。
次郎さんにとっては、孫が野球に打ち込めることが何よりだった。「車で送るぐらいは何とも思いません」。野球経験はないが、成長を見守り続けてきた。「野球に没頭できるような環境だけは作ってやりたいと思ってました」。その思いに応えるように、中村は高校でも全力でバットを振り続けた。
宿舎入り前に仏壇へ「力貸してほしい」、母に届けたかった甲子園1勝
高校では投手としてスタートしたが、現在は打力を買われて指名打者を務める。今夏の滋賀大会では打率.647をマーク。裕治さんも「出来すぎですね」と笑うほどの活躍を見せ、八幡商を15年ぶりの甲子園へ導いた。家族で追い続けてきた夢が、現実になった。
甲子園は次郎さんにとっても特別な場所だった。「甲子園には、ずっと行ってみたくて、まさか孫が連れてきてくれるとは思ってませんでした」。滋賀から裕治さんと応援バスに乗り込んだ。
中村は3日に宿舎入りする直前、自宅の仏壇に手を合わせた。「力を貸してほしい」。母に願ったのは、自分自身の活躍だけではなかった。「甲子園1勝をなんとか見せてあげたいと思っていました」。聖地での白星を何より届けたかった。
大観衆が埋めた甲子園に「最初は圧倒された」と語り、打席に立つたび、母に力を願った。それでも快音は響かず、チームも敗れた。「ヒットを打つことが一番の恩返しだと思ってたんで、それが打てなくて悔しいです」。母に届けたかった1勝も、祖父に見せたかった一打もかなわなかった。
それでも、中村にはもう1度挑戦する時間が残されている。「また来年、絶対ここ戻ってくる気持ちで、これから1年間練習に励んでいこうと思います」。父と祖父には「来年また甲子園に帰ってくるんで、全面的にサポートをお願いしたいです」と伝えた。亡き母に届けられなかった1勝と、支えてくれた家族への恩返しを誓い、聖地への“忘れ物”を取りにいく。
(横井洸太 / Kota Yokoi)