“甲子園初”が変えた運命「ホッとした」 課題認識も…新制度が生んだドラマ「歴史に残せた」

ビデオ検証のリクエストを要求する東日大昌平・小内壱晟【写真:加治屋友輝】
ビデオ検証のリクエストを要求する東日大昌平・小内壱晟【写真:加治屋友輝】

今大会3度目のビデオ検証…初めて覆った判定

 歴史的な瞬間が重なった。第108回全国高校野球選手権は大会第4日の8日、甲子園球場で1回戦4試合が行われ、第2試合は春夏通じて初出場の東日大昌平(福島)が白樺学園(北北海道)と対戦。9回に勝ち越し点を奪い、2-1で甲子園初勝利を挙げた。勝ち越し打の直前には、今大会から導入されたビデオ検証のリクエストを要求。初めて判定が覆り、直後の決勝打につながった。

 1-1で迎えた9回2死一、二塁。白樺学園の2番手でマウンドに上がっていた後藤健内野手(2年)の巧みな牽制球に、二塁走者の小内壱晟捕手(3年)は一瞬、反応が遅れた。慌てて帰塁。二塁のベースカバーに入った金井瀬那内野手(2年)にタッチされると同時に二塁ベースに足が届いたように見えた。

 二塁塁審の判定はアウト。ただ小内は「グラブが足に当たったんですけど、自分の足の方が先に(二塁ベースに)入ったかなという感覚がありました」とすかさずベンチの江井康胤監督に向かって「セーフです!」とアピールした。

 今大会から導入された、審判の判定を映像で確認する「ビデオ検証」。大会3日目の7日、第3試合で初めて実施されると、続く第4試合でも検証が行われた。ただ、いずれも判定を覆すような決定的な映像がないということで判定は変わらず。この試合が3度目のビデオ検証だった。

 江井監督は「ベンチから見ていてよく分からなかった部分があった」と振り返る。微妙なタイミングの判定。今大会から導入された新制度について、選手には「使うか使わないかはこっちで判断するので、使ってほしければシグナルを出してくれと言っていました」と事前に伝えていたという。

「二塁走者の小内がセーフだとアピールしていた。アウトならチェンジになって、勝つならタイブレークしかない。ここは勝負だと思いました。あそこは勝負どころだったのでリクエストしました」

 小内もセーフの確信があったわけではない。「確信はなかったんですけど『セーフだろう』『頼むからセーフであってくれ』と思っていました」。ビデオ検証中の心境を「待っている間は心臓の音が鳴りやまない感じでした。アウトになったら攻撃が終わる、流れも相手にいってしまう。ドキドキして待っていました」と回顧する。

アウトの判定が覆った直後に飛び出た決勝打

 途中、バックスクリーンのビジョンにも何度も映像が流れた。セーフにも見える映像に、三塁側の東日大昌平アルプススタンドから大歓声が上がる。「映像を見て自分たちのアルプススタンドから歓声が上がったので、少しホッとしたんですけど、審判の判定を待つまでは何があるか分からない」。長い検証を待った。

 結果はセーフ。史上初めて、高校野球のビデオ判定が覆った歴史的な瞬間だった。「セーフと言われた瞬間に、ホッとしました」。アウトなら3アウトでチェンジとなり、攻撃の流れを断ち切ってしまった場面。まさに命拾いだった。

「今年からビデオ検証ができて良かったなと思います」。小内も胸をなでおろした紙一重のプレーだった。「自分としては悪いプレーだったけど、ビデオ検証のおかげでいい方向に転がったかなという感じです」。直後に入ケ町隼仁外野手(3年)が左前適時打。二塁走者の小内は「絶対にセーフになってやるという気持ちで走りました」と全力で三塁を回り、ヘッドスライディングで決勝のホームを陥れた。

「初出場で1勝できて、歴史に残せました」。歴史的な出来事が重なり、小内は興奮を隠せない。江井監督も「あそこでひっくり返ったというのはウチにとって物凄く大きい」とうなずき、制度自体については「時間がかかってしまうデメリットもあります。世の中の流れ、国際的な流れもあるし、高野連がしっかり考えてくれている」と言葉を選びながら冷静にコメントした。

 終盤の大事な局面で、結果的に勝敗に直結したビデオ判定。初出場で記念すべき勝利をつかんだ東日大昌平はもちろん、長い歴史を持つ高校野球にとっても大きな意味を持つ瞬間となった。

(尾辻剛 / Go Otsuji)

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