流れを変えた“クーリングタイム”大作戦 敵将も脱帽…天理の大胆選択「先攻が合っている」

高川学園に逆転勝利して8強入りを決めた天理ナイン【写真:加治屋友輝】
高川学園に逆転勝利して8強入りを決めた天理ナイン【写真:加治屋友輝】

敵将脱帽「常々注意はしているが、経験値が高く隙を突かれた」

 春1回、夏2回の全国制覇の実績を誇る天理(奈良)には、“ラッキーセブン”ならぬ“ラッキー・シックス”がある。第108回全国高校野球選手権大会第11日は15日、甲子園球場で3回戦が行われ、第1試合では天理が6-3で高川学園(山口)に勝利。5回終了時点では0-3と劣勢だったが、6回に一挙4得点で大逆転した。今大会初戦の福山(広島)との2回戦に続いて6回に打線が爆発したのには、確かな理由がある。

 熱中症対策として2023年の夏の甲子園から導入されている、5回終了後の10分間の「クーリングタイム」が試合の流れをガラリと変えた。

 天理打線は5回まで、相手の高川学園のエース・木下瑛二投手(3年)の粘投の前に無得点。逆に1、4、5回に1点ずつ失い、3点のビハインドを背負った。

 ところが、クーリングタイム明け直後の6回表だった。先頭の3番・永井仁之丞外野手(2年)からの3連打で1点を返し、なおも四球で無死満塁とチャンスを広げ、ここで木下をマウンドから引きずりおろした。さらに高川学園2番手の宮崎隆成投手(3年)からも押し出し四球、押し出し死球、中犠飛を奪い、一気に逆転したのだった。

“敵将”の高川学園・松本祐一郎監督は「クーリングタイム後の6回、わざわざ先攻を取っていた天理高校さんが、変わり目のチャンスを逃さなかった。何枚も上手だったと思います」と指摘する。「クーリングタイムにはいったん試合が止まりますから、常々注意はしているのですが、経験値の高い天理高校さんは一瞬の隙を逃さず、集中力としぶとさを発揮された。打順もちょうど3、4、5番に回った。私も子どもたちと一緒に教訓にして、今後に生かしたいと思います」と“脱帽”した。

 一方、天理・藤原忠理監督は「もともと3点ビハインドは計算内。9回までに1点差にすれば、攻め方はあると思っていました。クーリングタイム中に『3点差はワンチャンスだ。絶対にビッグイニングをつくれる』と言い聞かせました」と明かす。

戦況を見つめる天理・藤原忠理監督【写真:加治屋友輝】
戦況を見つめる天理・藤原忠理監督【写真:加治屋友輝】

「勝っていれば落ち着かせ、負けていれば作戦を立て直せる」

 クーリングタイムで試合の流れを変えたいのであれば、直後に攻撃ができる先攻の方がいい。天理はこの日、ジャンケンに勝って先攻を選択。今大会初戦の福山との2回戦でも、じゃんけんには負けたが、幸い相手が後攻を選択し、先攻の天理は5回まで1-0の接戦を演じるも、6回に4得点で突き放した。奈良県大会決勝も、先攻で5回までは奈良大付と2-0の接戦だったが、クーリングタイム直後の6回に3得点し試合の流れを決定づけた。

 藤原監督は「基本的に、延長タイブレークのことを考えれば、後攻の方が有利だとは思います。しかし、選手たちには『おまえたちには先攻が合っている』と暗示をかけています。実際、先攻のチームは試合開始直前のシートノックの順番が後になるので、その方が落ち着いて試合に臨める気がしています」と笑う。

 クーリングタイムを境に、作戦も変えた。天理打線は初回と3回に送りバントで走者を得点圏に進めたが、あと1本が出ず得点できなかった。6回は一転、先頭の永井が出塁すると、4番の金本相有内野手(3年)に強攻を命じ、左前打で続いた。藤原監督は「作戦をポンと変えました。金本にはクーリングタイム中に『先頭が出塁したら、送りバントはさせない。打てよ』と言ってありました」と明かした。

 守備面でも、クーリングタイムを利用した。天理のバッテリーは初回に二盗を2つ、5回にも1つ許し、いずれも失点につながっていた。藤原監督はクーリングタイム中、長尾亮太投手(3年)には「セットポジションの時に、もっと長くボールを持て」、小沢典弘捕手(2年)には「(二塁への送球の際に)ボールを置きにいっている。もっと腕を振れ」と指示した。そしてバッテリーは7回2死一塁の場面で、4度目にして一塁走者の二盗を阻止した。

 藤原監督はクーリングタイムを「勝っていれば落ち着かせることができますし、負けていれば作戦を立て直せる。大いに活用しています」と重視する。わずか10分間の過ごし方が、明暗を分けるケースもよくあるのだ。

(宮脇広久 / Hirohisa Miyawaki)

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