「行けると思ってた」 有明のミラクル呼ぶ韋駄天…逆転生んだ三盗にあった伏線と研究

1点ビハインドの8回、バント安打で出塁→三盗成功→逆転
“ミラクルを呼ぶ男”だ。第108回全国高校野球選手権大会は16日、甲子園球場で3回戦が行われ、第2試合では春夏を通じ甲子園初出場同士の有明(熊本)と東日大昌平(福島)が対戦。有明が4-1で勝ち、3試合連続逆転勝ちでベスト8入りを決めた。7月の熊本地震の被災者を元気づける快進撃。50メートル5秒8の快足を誇る1番打者・永田晴輝外野手(3年)が、自慢の走力で試合の流れを引き寄せる役割を果たし続けている。
誰もがあっと息を呑んだ。0-1の1点ビハインドのまま迎えた8回の攻撃。1死走者なしで打席に入った永田は、初球をバントし一塁線に転がした。見事にバントヒットを勝ち取り出塁した。「本当は二塁手の前に転がそうと思ったのですが、結果的によかったと思います」と口元を綻ばせた。
本当に凄かったのは、ここからだ。続く西山亨太郎捕手(3年)の四球で二塁に進んだ永田は、3番・実田聡志内野手(3年)の初球に“まさか”のスタートを切る。頭から三塁へ滑り込み、悠々セーフ。これを見た一塁走者の西山も二塁に達し、ダブルスチール成功で1死二、三塁にチャンスが広がった。
「三盗はリスクが高い。100%成功させる自信がない限り、やってはいけない」というのが野球のセオリーではある。1点ビハインドで試合は終盤。仮にアウトになっていれば、一気に敗色が濃くなる場面だったが、「三盗の方が好き」という永田には絶対的な自信があった。高見一茂監督が永田にグリーンライト(選手本人の判断でいつでも自由に、ノーサインで盗塁してよいという許可)を与えている事情もあった。
「事前に動画で相手投手を研究して、走者の方を2回見た後は打者の方へ投げるとわかっていたので、行けると思っていました。ただ、あの時は3回目も見てきたので、少しびっくりしたのですが、いったん戻るふりをしてからスタートを切りました」と、してやったり。この時、マウンドにいた東日大昌平・白田夢真投手(3年)は今大会初登板で、永田が研究したのは福島大会の動画だった。
中学時代は陸上部「野球に活かすため」中距離専門
2死後、代打・広沢遼太朗選手(3年)の左前打で永田、西山が生還。有明はまたもや逆転に成功した。この日だけではない。悲願の甲子園初出場を決めた東海大熊本星翔との熊本大会決勝でも、初回に二盗、三盗を続けて決めた永田が犠飛で先制のホームを踏み、チームを勢いづかせている。
今大会初戦の立命館宇治(京都)との1回戦でも、1点ビハインドの9回、2死満塁で走者一掃の逆転3点三塁打を放ったのが永田だ。さらに長崎日大との2回戦では、2回に逆転し1点リードを奪った後、3回先頭の永田は二塁打で出塁し、得意の三盗を決め、相手の野選で貴重な追加点のホームへ滑り込んだ。本人も「自分が盗塁すると、チームに勢いが来る。意識しています」と強調する。
そんな永田は福岡・福島中時代、ボーイズリーグで硬式野球に取り組む一方、学校では陸上部に所属していた。短距離ではなく、800メートル、1500メートルなど中距離を専門にしていたのは、「陸上部に入ったのは体力づくりが目的で、野球に活かそうと思っていたから」だという。
ちょうど有明は高校野球に低反発バットが導入された2024年頃から、走力向上のためスプリント・トレーニングに力を入れていた。お陰で、もともと走力に自信のあった永田もスプリントタイムが伸びた。「今年の春先頃からタイムが伸びて自信がつき、盗塁するたびに、だいたいセーフになりました」とうなずく。「今年に入ってから、盗塁を刺された記憶はありません」と言い切るほどだ。
有明は7月24日に熊本大会決勝で東海大熊本星翔を破り、創部30年目で悲願の甲子園出場を決めたが、4日後の同28日、地元の熊本が最大震度7の地震に見舞われ大きな被害が出た。被災者を元気づける快進撃に、甲子園のスタンドも反応。永田は「逆境であっても、自分たちがチャンスをつくると歓声や手拍子が聞こえてきて、球場全体が自分たちの味方をしてくれていると感じます」と感謝する。
熊本の韋駄天が入れば、有明に奇跡が起こる。快進撃はまだまだ止まりそうにない。18日の準々決勝では健大高崎(群馬)と対戦する。
(宮脇広久 / Hirohisa Miyawaki)