“織田撃ち”のヒーローが担う意外な大役 1日の始まりは料理から…智弁和歌山を支えた「卵焼き」

決勝3ランを放った智弁和歌山・楠本龍生【写真:加治屋友輝】
決勝3ランを放った智弁和歌山・楠本龍生【写真:加治屋友輝】

智弁和歌山の楠本龍生が織田から3ラン「100%真っすぐとわかっていた」

 団結力を高めた“個性派集団”は、向かうところ敵なしだ。第108回全国高校野球選手権大会は20日、甲子園球場で準決勝2試合が行われ、第1試合では智弁和歌山が7-1で優勝候補筆頭と見られていた横浜(神奈川)に圧勝した。なかでも、横浜の最速157キロ右腕・織田翔希投手(3年)のストレートを右翼席へ放り込んだ5番・楠本龍生内野手(3年)のスイングは圧巻だった。

 0-1で迎えた3回の攻撃。智弁和歌山は4番・山田凛虎捕手(3年)が三塁線を鮮やかに破る同点二塁打を放ち、なおも無死二、三塁のチャンスで楠本が左打席に立った。カウント2-0から、152キロを計測した内角低めのストレートを迷いなく強振。高々と舞い上がった打球は、右翼席に吸い込まれていった。

 楠本は「サポートメンバーが取ってくれたデータで、カウント2-0からは100%真っすぐとわかっていたので、真っすぐを仕留めることができました」と“裏方”のチームメートに感謝した。

 前日練習で、織田攻略のためにバッティングマシンの球速を170キロ以上に設定。全選手が目を慣らして臨んだことも功を奏した。楠本は「昨日174キロの球を見て『速っ!』と驚きました。織田くんの球も同じくらい速く見えましたが、同じだったからこそ打てたのだと思います」とうなずいた。

“織田撃ち”でヒーローになった楠本は、実はチーム内で意外な大役を担っている。主将の松本虎太郎選手(3年)が「食事係です。寮母さんが1人で寮生全員分のご飯をつくるのは大変なので、楠本が毎朝ご飯をつくることになりました。何でもつくれますし、美味しいですよ」と明かす。

 一番の得意料理は卵焼き。松本主将が「(卒業後に)高校時代を象徴する味といわれたら、全員が楠本の卵焼きを思い出すと思いますよ」と絶賛するほどだ。野球部員40人中、約30人が寮生で、松本主将は「自分はキャプテン、楠本には寮長という肩書もあります」と付け加える。

中谷監督は阪神、楽天、巨人で捕手として活躍

“卵焼き名人”の食事係だけでなく、智弁和歌山の選手たちは多士済々だ。しかし、新チーム結成後最初の大会である昨秋の和歌山県大会では、準々決勝で近大新宮に敗れ、早々と選抜出場の夢を断たれて“出直し”を求められた。

 阪神、楽天、巨人で捕手として活躍した実績を持つ中谷仁監督は、ナインに対し「日本一コミュニケーションのあるチームをつくろう」、そして「日本一仲間を生かせるチームになろう」という2つのテーマを与えた。

 松本主将は「もともと個性の強いメンバーがそろっていて、それまではお互いにあまり話し合ったりはせず、“自分は自分”という感じでやっていました。近大新宮に負けて、監督から2つの言葉をいただいて、まずは思ったことは全て言葉に出そうということになりました」と振り返る。

「誰もが練習中に気付いたことがあれば、練習を止めてでも伝えるようになりました。本気でやりました。僕たちの学年は最上級生になってから、こいつはこういうことを考えていて、こういうやつなんだと、初めて知ることができたというのが正直なところです」と感慨深げだ。

 こうしてお互いが理解を深めたチームは、今春の和歌山県大会で優勝し、続く近畿大会でも準優勝。今夏も接戦続きだった和歌山県大会を勝ち抜き、甲子園では全国制覇に王手にかけるところまできた。

 22日午前10時から行われる決勝の相手は、健大高崎(群馬)。個性派集団は、決勝で智弁学園(奈良)との“智弁対決”を制した2021年夏以来5年ぶりとなる深紅の大優勝旗を、中谷監督に贈ることができるだろうか……。

(宮脇広久 / Hirohisa Miyawaki)

RECOMMEND

KEYWORD

CATEGORY