大谷翔平、電撃復帰の舞台裏 ド軍首脳に“規格外”ゆえの葛藤も…離脱前と違っていた「アプローチ」

パドレス戦でスタメン復帰を果たしたドジャース・大谷翔平【写真:アフロ】パドレス戦でスタメン復帰を果たしたドジャース・大谷翔平【写真:アフロ】

大谷が負傷者リストから復帰、4打数1安打1四球

 10月のポストシーズンを目前に控え、ドジャースの大谷翔平投手がついに戦線へ戻ってきた。右上腕二頭筋の炎症による負傷者リスト(IL)入りを経て、23日(日本時間24日)に本拠地で行われたパドレス戦に「2番・指名打者」で先発出場。4打数1安打1四球と健在ぶりを示した。

 レギュラーシーズン残り5試合という極めて限られた時間の中で、ドジャース首脳陣はどのように復帰を描き、世界一へ向けた最後のパズルを完成させようとしているのか――。試合後のデーブ・ロバーツ監督とアンドリュー・フリードマン編成本部長の言葉から、その舞台裏と真意を紐解く。

 大歓声に包まれた初回1死の第1打席。2ボール1ストライクから、左腕ロビー・レイの外角低めスライダーに食らいつき、右前へ弾き返した。復帰初打席初安打。本拠地で待ち望んでいたファンをいきなり沸かせた。

 3回2死ではしっかり四球を選び、7回先頭の第4打席では中堅後方へ飛距離384フィート(約117メートル)の大きな飛球を放った。4回2死満塁と9回1死は空振り三振に倒れたが、数字以上の手応えがその内容には詰まっていた。

7回の打席では中堅後方へ大飛球を放ち本拠地を沸かせた【写真:ロイター】7回の打席では中堅後方へ大飛球を放ち本拠地を沸かせた【写真:ロイター】

「動きは非常によく見えた。打席でのアプローチや内容も素晴らしかった。ボール球を追いかけることもなく、第1打席では鋭い打球を放ち、別の打席ではもう少しでホームランという大打球を見せ、四球も選んだ。しばらく実戦から離れていたにもかかわらず焦る様子は一切見られず、復帰戦として非常に良い状態だった」

 パドレス戦の試合後、ロバーツ監督は表情を緩めながら大谷の打席内容を高く評価した。

 実戦から離れていた大谷の復帰について、指揮官は「皮肉なことに、今すぐ対戦させられるマイナーの投手を確保するのが難しかったのも理由の一つ。だが、怪我の再発リスクが少しでもあるならメジャーのラインナップには入れない」と語っていた。その言葉通り、生きた球を打つ「実戦の場」として、ぶっつけ本番で挑んだ復帰戦で、大谷は首脳陣の期待を上回るパフォーマンスを示してみせた。

 復帰にあたり、21歳の若手有望株ホスエ・デポーラを傘下3Aオクラホマシティへ降格させた決断について、ロバーツ監督は「ショウヘイが戻ったことで枠が限られるため、実戦で好調を維持させポストシーズンの代打枠として呼び戻す狙いがある」と明かし、チーム全体で最善の陣容を整えつつあることを強調した。

なぜ不調時のスイングと「アプローチ」は違っていたのか

 試合後会見の核心は、大谷のスイングと身体状態の密接な関係性へと及んだ。IL入り前の大谷は、ボールゾーンの見極めや、高めの直球への対応に課題を残していた。指揮官はその理由を明確に分析する。

「身体の状態と打席でのアプローチは密接に関連している。身体に不調や痛みを抱えていると力強さやスイングのキレが出ないため、どうしてもタイミングを早めるなどの誤魔化しが必要になる。しかし、健康で力強いと感じられれば、しっかりボールを見極めて自分の目を信じてスイングでき、バレル(打球速度と角度の組み合わせで長打になりやすい当たり)を出すことができる。今夜の彼の打席では、まさにそれが見られました。始動が早すぎることもなく、ボールがしっかり見えていた」

 特に数週間前までは手こずっていた高め直球に対し、中堅フェンス手前まで飛ばした7回のスイングについて、ロバーツ監督は「彼が身体的に非常に良い状態にあることが証明された」と強い手応えを口にした。

復帰戦は4打数1安打も、大谷らしい打球で復調を示した【写真:ロイター】復帰戦は4打数1安打も、大谷らしい打球で復調を示した【写真:ロイター】

 復帰までの道のりを支えたアンドリュー・フリードマン編成本部長も、大谷の復帰がもたらす影響の大きさを強調する。

「今週復帰した選手たちを含め、自分たちが持つ本来の才能を発揮できる非常に強い陣容で10月を迎えられるチャンスがあると実感している。何より重要なのは、ショウヘイ自身が体調の良さを実感できていることだ」

 ここに至るまで、大谷という「規格外の存在」ゆえの葛藤と、表に出ない葛藤が存在した。フリードマン編成本部長は、大谷の内に秘めた責任感をこう明かす。

「身体に違和感がある時、選手には2つのことが起こる。1つは痛む部分を無意識にかばい、フォームの崩れにつながってしまうこと。もう1つは、私たちが休養を提案しても、彼の答えが毎回『チームの勝利に必要なことなら何でもやる』であること。彼は自分の不調を全て素直にアピールするタイプではない」

 二刀流という前例のない挑戦を続ける大谷の起用には、過去の経験に頼れる「マニュアル」が存在しない。フロントや首脳陣もコミュニケーションを重ねながら手探りで進めてきた。

 また、パドレスとの戦いについて、ロバーツ監督は「ポストシーズンで対戦する可能性が高い相手として、間違いなく意識の中にある。相手投手の情報を収集する上でも非常に重要な機会だ」と明かし、レギュラーシーズン最終盤の1試合1試合が本番を見据えた極めて濃密なシミュレーションであることを裏付けた。

「100%の男」はいない…10月に勝利をもたらす精神論

「10月に100%の万全な状態でいられる選手など一人もいません」

 フリードマン編成本部長は力強く語った。

「長くて過酷なシーズンを戦い抜き、どのチームの選手もスタミナを使い果たしてアドレナリンだけで動いているような状態だ。私にとって重要なのは、各選手がこれまでの経験を糧にし、冷静に自分のプレーを行い、持っている才能を発揮すること。誰も普段以上の特別なことをしようと力む必要はない」

 初打席の快音から大飛球まで見事なアプローチを見せ、指揮官からは「明日も出場する」と全幅の信頼を寄せられた。背番号17が見せる圧倒的なスイングと冷静な見極めは、ドジャースという常勝軍団に世界一への最後のピースがハマったことを何よりも雄弁に物語っている。

 残りわずかな戦い、そしてその先に待つ10月へ――。大谷翔平の完全復活とともに、ドジャースの真の戦いが幕を開ける。

(小谷真弥 / Masaya Kotani)

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