顔面死球も…慶大捕手を動かしたドラフト 断ち切った“選択肢”、秘める覚悟「育成でも」

法大戦に出場した慶大・吉開鉄朗【写真:加治屋友輝】
法大戦に出場した慶大・吉開鉄朗【写真:加治屋友輝】

監督安堵「本人の痛みと意欲次第だったが元気にやってくれた」

 前日に右目付近へ死球を受けた選手が、パンダのように目の周りを内出血させたまま奮闘していた。東京六大学野球で今春のリーグ戦を制し、開催中の秋季リーグでも連覇を目指している慶大の吉開鉄朗(よしがい・てつろう)捕手(4年)。今月22日のプロ野球ドラフト会議へ向けてプロ志望届も提出済みで、並々ならぬ決意でリーグ戦を戦っている。

 4日に神宮球場で行われた法大2回戦。慶大の「9番・捕手」としてフル出場した吉開は、目の周りが内出血で黒ずみ、痛々しい風貌となっていた。前日(3日)の同1回戦で、1-1の同点で迎えた8回に先頭で打席に入り、顔面に死球を受けた。治療後に一塁走者として試合出場を続行。主将の今津慶介内野手(4年)の中前適時打で決勝のホームを踏んだが、9回の守備では渡辺憩捕手(3年)にマスクを譲った。

 一夜明けた4日もスタメン出場を直訴。吉開は「朝起きたら、こういう感じになっていましたが、(前日の診断で)骨には異常がなく、視界にも問題がなかったので。本当に無理なら、無理と言うつもりでしたが、気持ち次第でいけるところでした」と事もなげにうなずいた。堀井哲也監督は「医師の診断で、出場しても大丈夫とのことで、あとは本人の痛みと意欲次第でしたが、元気にやってくれました」と胸をなでおろした。

 打っては7回に“逆方向”の右翼線を破る二塁打を放つなど、4打数2安打。捕手としても、好リードをみせ、先発の広池浩成投手(4年)を6回まで1安打無失点の快投に導いた。しかし、終盤に逆転され、2-5で敗れただけに、吉開は「自分で直談判して出場させてもらっただけに、勝利に結びつけることができず悔しいです」と唇を噛んだ。

 とはいえ、吉開の存在感は格別だ。神奈川・慶応高時代、夏の甲子園で107年ぶりの全国制覇を成し遂げ、勇名を馳せたのは1学年下の世代で、吉開自身は甲子園の経験はない。慶大進学後も、慶応高で全国制覇メンバーの正捕手だった渡辺憩や、さらに1学年下の加藤右悟捕手(2年)らに突き上げられる格好になったが、地道な努力で正捕手の座を固めた。

打者としても活躍した慶大・吉開鉄朗【写真:加治屋友輝】
打者としても活躍した慶大・吉開鉄朗【写真:加治屋友輝】

「いつ寝ているのかと心配になるほどデータを研究している」

 今春のリーグ戦では全13試合で先発マスクをかぶり、5季ぶりの優勝に貢献。今秋もスタメン捕手の座を譲らず、打撃でも結果を残している。9月5日にはプロ志望届を提出。「小さい頃から、将来の夢を聞かれた時にプロ野球選手と言ってきたので、可能性が1%でもあるのならチャレンジさせてもらいたいと思いました」と力を込める。

「僕は打撃とか、肩とか、何か凄いセールスポイントがある選手ではありません」としながらも、「“勝てる捕手”を目指して大学生活を送ってきましたので、阪神の坂本(誠志郎)選手のように“女房役”という言葉が似あう捕手になりたいと思っています」とアピールする。自分が目立つよりも、陰で投手に寄り添い、チームを鼓舞することを身上としているのだ。

 プロ入りの意志が半端でない証拠に、「縛りなどのない、自由な立場で(ドラフト会議に)臨みたかったので、企業などのお誘いをいったんお断りして、『育成でも』という気持ちでいます」と言い切る。

 堀井監督は「吉開はいつ寝ているのかと心配になるほど、対戦チームのデータや映像を研究しています」と感心しきりだが、吉開は謙虚そのものだ。「僕は、対戦相手の動画を見ることとか、全ての投手に気を遣うこととか、ワンバウンドの投球を止めることとか、誰にでもできることをしているだけですが、安定してやり続けているうちに、いつの間にか、そこが長所になっていました」と控えめにほほ笑む。

 吉開は恩師の堀井監督について「腹をくくることを教わりました。チャンスの打席では、本当はスイングをするのも怖いですが、『腹をくくらないと、結果は残せないぞ』と言い続けてもらいました。下級生の時は『何を言っているんだろう?』と思っていましたが、最近になって監督の勝負師としての勘や指導力に気付きました」と感謝を口にしている。

 グラウンド上だけではない。吉開は人生の岐路で恩師の教え通り、まさに腹をくくり、不退転の決意で22日のドラフトを待っている。

(宮脇広久 / Hirohisa Miyawaki)

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