ドジャース救う“キケの魔法” ピンチの由伸へ「汚い言葉」…10月に異常な勝負強さを発揮するワケ

ブレーブス戦で決勝2ランを放ったドジャースのエンリケ・ヘルナンデス【写真:荒川祐史】ブレーブス戦で決勝2ランを放ったドジャースのエンリケ・ヘルナンデス【写真:荒川祐史】

キケ・ヘルナンデスが決勝2ラン…PS通算HRは現役10位の17本

 敵地での緊張感が最高潮に達する大舞台で、またしても一人の男がチームを救い出した。ドジャースのエンリケ・ヘルナンデス内野手は6日(日本時間7日)に敵地で行われたブレーブスとの地区シリーズ第3戦に「9番・三塁」で今ポストシーズン(PS)初出場。負ければ崖っぷちに立たされる重圧の中、キケが見せたのは、まさに圧巻の一撃だった。

 両軍無得点で迎えた4回1死一塁。エースのクリス・セール投手が投じた内角低めチェンジアップを完璧に捉えた打球は、左翼スタンドへと吸い込まれる鮮やかな先制1号2ラン。序盤3イニングでランナーを出しながらも無得点が続いていたドジャースベンチの重苦しい空気を一変させる劇的な一発となった。

 この一発により、キケのPS通算本塁打は17本に。通算44打点に伸ばし、現役打者の中でジャンカルロ・スタントン外野手(現ヤンキース)と並ぶ5位に浮上した。さらに通算81安打(現役6位)、通算17本塁打(同10位)と数々の金字塔を打ち立てている。

 とりわけ異彩を放つのがドジャースでのPS通算本塁打数だ。これで通算12本となり、大谷翔平投手や殿堂入り打者のデューク・スナイダーを抜いて球団史上単独4位に浮上した。さらに、自身のPS通算17本のうち9本を敵地で放っており、ビジターでのPS通算打率.305、長打率.558と、敵地のファンを沈黙させる不敵な「アウェーキラー」ぶりを見せつけている。

 球界屈指の左腕セールのチェンジアップを、キケはいかにして打ち砕いたのか。本人が明かした打席での思考は、極めて冷静かつチーム最優先のものだった。

「正直なところ、チェンジアップは全く頭になかった。特に初球がボールになった後は、チェンジアップを続けて投げ込んでくるとは思っていなかった。とにかく粘って相手を疲弊させようとしていたんだ。あのイニングは前の2打者が比較的早く打ち取られていて、僕の役割は打順を上位につなぐために球数を投げさせることだと思っていた」

大谷翔平(左)と喜びを分かち合った【写真:荒川祐史】大谷翔平(左)と喜びを分かち合った【写真:荒川祐史】

「今年一番の良いスイングができた」

 狙い球を絞っていたわけではない。ファウルで粘り、球数を投げさせようと準備していたからこそ、甘く入った球に瞬時に反応できたのだ。

「初球のチェンジアップが外れていなければ、次の球にあそこまで残ってスイングすることはできなかったと思う。軌道をすぐに認識することができ、今年一番の良いスイングができた」

 なぜ、10月になるとこれほどまでに勝負強さを発揮できるのか。その原動力は幼少期からの強い思いにある。

「10月の野球でプレーすることをずっと夢見て育った。ただメジャーでプレーするだけでなく、10月のポストシーズンやワールドシリーズでプレーすることをいつも夢見ていたんだ。巡ってきたチャンスで結果を残せているのは本当に幸運なことだ」

 試合後のインタビューでは、慣れない椅子に座りながら「品良く振る舞おうと必死で集中できない(笑)」とお茶目に語っていたキケ。だが、グラウンドで見せる勝負強さと準備について、デーブ・ロバーツ監督やチームメートたちはどう見ているのか。

 ロバーツ監督は試合後、キケの勝負強さと存在感について熱弁を振るった。

「彼は大舞台に強い選手だ。チームにはあの『キケの魔法』が必要だった。彼は常に準備ができており、こういう緊張感のある場面を好む。集中力を一気に高める術を知っているのだ。チェンジアップを続けられた場面で見事なスイングを見せ、守備でも素晴らしいプレーを連発してくれた。ポストシーズンで彼がラインナップにいるだけで、チームに特別な気迫と活力がもたらされる」

 さらに指揮官は、先制2ランがチーム全体に与えた心理的効果の大きさをこう振り返る。

「単純に先制点となって、うれしかった。敵地でリードを奪うことは極めて重要だ。追いかける展開だとプレッシャーや焦りが募るが、先制したことで相手にプレッシャーを与え、ヨシノブ(山本由伸投手)の肩の荷を軽くすることもできた。あの2ランが出た瞬間はホッと一安心した」

好投した山本由伸(右)を鼓舞した【写真:荒川祐史】好投した山本由伸(右)を鼓舞した【写真:荒川祐史】

フリーマンも脱帽「秘訣のレシピがあるなら分けてほしい」

 常日頃からキケの姿勢を間近で見ているフレディ・フリーマン内野手も、その勝負強さに思わず脱帽する。

「勝負強さの『秘訣のレシピ』があるなら、みんなに分けてほしいくらいだ(笑)。本当に凄いです。必要な場面で必ず結果を出してくれる。しばらく先発から離れていたにもかかわらず、打席だけでなく三塁で見事な守備を見せ、9回には左翼に入るなど、チームの至る所で活躍してくれます。まさに『スイスアーミーナイフ(万能ナイフ)』のような存在で、いつ出番が来ても準備ができている。彼からそのコツを聞き出したいね」

 どんな役割を与えられても完璧にこなす準備の妥協のなさが、チームメートからの絶大な信頼に繋がっている。

 キケの存在感は、自らの打席や守備だけに留まらない。5回1死満塁の大ピンチを迎えていた山本に対して、三塁から歩み寄って声をかけた。山本は試合後、笑みを浮かべながらこう振り返った。

「『自信持っていけ』みたいな感じでした。汚い言葉でしたけど(笑)。すごく励まされました」

 スラング交じりの熱い言葉で後輩の背中を押す。グラウンド上でのパフォーマンスはもちろん、こうした熱血的な鼓舞こそが、山本の気迫を呼び起こし、チームに勝ち星をもたらす「キケの魔法」のもう一つの正体なのだ。

 10月の舞台で異彩を放つ背番号8。ドジャースが世界一へと駆け上がる道筋には、これからもこの男のバットとグラブ、そしてチームを鼓舞する熱い言葉が必要不可欠だ。

(小谷真弥 / Masaya Kotani)

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