山本由伸を覚醒させた“恐怖”「誰よりも怖かったと」 師匠・矢田修氏が明かす10年目の進化論「とってもいい孫」

シャンパンファイトで歓喜の美酒に酔うドジャース・山本由伸シャンパンファイトで歓喜の美酒に酔うドジャース・山本由伸

ポストシーズン男・山本由伸を支える矢田修氏との絆

 歓喜の美酒が飛び交い、甘い香りと熱気が充満するシャンパンファイトの会場。3年連続でリーグ優勝決定シリーズ進出を決めたドジャースの歓喜の輪の中に、山本由伸投手の偉業を影で支え続けてきた人物の姿があった。オリックス時代から約10年にわたり山本の身体づくりと感覚を研ぎ澄ませてきたトレーナー、矢田修氏だ。

 ビショビショになりながら取材に応じた67歳の矢田氏は、「幸せしかないです。幸せしかないです」と満面の笑みを浮かべた。昨年のワールドシリーズでは第6戦、第7戦とまさかの“中0日”で連投し、チームの連覇に貢献。シリーズMVPに輝いた。今季も1勝1敗のタイで迎えた6日(日本時間7日)のブレーブスとの地区シリーズ第3戦で、7回1失点10奪三振という圧巻の快投を見せ、勝利に導いた。長年その一投一投を見守ってきた矢田氏の目に、現在の山本の姿はどう映っているのだろうか。

 前回の登板について問われると、矢田氏は即座に「現時点では100点です」と言い切った。だが、その言葉の真意は決して現状維持を意味するものではない。

「今の状態で100点なんですけど、これからまだ進化するから。まだまだレベルは上がっていくと思います」

 昨年よりもさらに球種の精度や再現性が高まっている点についても、「高確率で良くなります。間違いなくなります」と断言。スプリット、カーブなど特定の球種や技術だけではなく、「全体的にレベルがどんどん上がっていく」と、教え子の底知れぬポテンシャルに絶対的な信頼を寄せた。

 大舞台でも一切物おじせず、普段以上のパフォーマンスを発揮する18番の強心臓。プレッシャーのかかる場面でも「自信はないけど、不安のほうが少なかった」と矢田氏は振り返る。「毎日会ってるから。同じ空気吸ってるから」という言葉からは、単なるトレーナーと選手という枠組みを超えた、深い心の繋がりと積み重ねてきた月日の重みが滲み出る。

地区シリーズ第3戦で見せた圧巻の投球【写真:荒川祐史】地区シリーズ第3戦で見せた圧巻の投球【写真:荒川祐史】

「怒鳴らない」のに誰よりも怖い? 独自のアプローチが生んだ自主性

 では、なぜ山本はこれほどまでに大舞台で強いのか。その理由を問われた矢田氏は、思わずニヤリと笑いながら明かした。

 メディアの前では常にニコニコと穏やかな笑顔を見せる矢田氏だが、トレーニングの現場では緊張感が漂う。かといって、矢田氏が大声を張り上げて叱るわけではないという。

「叱ったことは一回もないです。怒鳴ることはしませんけど、プレッシャーはずっとかけてますから。厳しいことを要求する優しい言葉です。『それ逃げ道ないの?』みたいなのを、キレずに言うみたいな」

 決して威圧するのではなく、相手の思考を促す“優しい追及”。逃げ場をなくし、常に自ら考えさせる問いかけを10年間繰り返してきたからこそ、山本には強い責任感と自己管理能力が芽生えた。

「彼はその辺の責任感があるので、僕がいなくても勝手に判断してくれる。とってもいい孫です」

 矢田氏は愛おしそうに教え子を評した。

ウィル・スミス(右)からビールをかけられる矢田修氏【写真:小谷真弥】ウィル・スミス(右)からビールをかけられる矢田修氏【写真:小谷真弥】

「今年は奇跡を2回起こせる」頂点へ向けた覚悟

 地区優勝を決めた9月17日(同18日)のレッズ戦後。山本は「やっと始まるなという気持ち」と、ワールドシリーズ3連覇へ向けて気持ちを新たに語った。そしてポストシーズン初登板となったブレーブス戦。目つきをガラリと変え、打者一人一人と対峙した。その姿を矢田氏は「違うスイッチが入る」と見守る。

 昨年、圧倒的な投球で世界を魅了した右腕だが、師匠の見据える未来はさらに高い場所にある。

「去年は奇跡を1回起こせるんやったら、今年は奇跡2回起こせるんと違いますか。これっていうのは明確にないけど、そういう期待感は凄くあります」

 世界最高の舞台でさらなる高みを目指す山本と、それを陰で支える唯一無二の師匠。2人の歩む進化の道のりは、どこまでも続いていく。

(小谷真弥 / Masaya Kotani)

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