「明日雨やから」コーチの一言で狂った夜 ドラ1右腕を襲った罠…記憶喪失の“悪夢”

元阪急・山沖之彦氏【写真:山口真司】
元阪急・山沖之彦氏【写真:山口真司】

山沖之彦氏は1年目に7勝1セーブも…縁がなかった記念球

 1981年ドラフト会議で阪急に1位指名された山沖之彦氏は、プロ1年目(1982年)に30登板、7勝15敗1セーブ、防御率3.84の成績を残した。史上初の新人投手で開幕戦セーブを記録するなど、当初はリリーフだったが、5月からは先発ローテーション入りして活躍した。当時のパ・リーグは前期・後期の2シーズン制で、西武と優勝を争った前期では天王山と目された試合に先発したが、初回に満塁本塁打を被弾。「あの時は寝てなかったんです」と苦い思い出を語った。

 ルーキーイヤーの高知春季キャンプでは「練習についていくだけで精一杯だった」という山沖氏だが、3月に入ってから調子を上げて開幕1軍入りをつかんだ。プロ初登板は開幕戦(4月4日の近鉄戦、西宮)でのリリーフ。7-6の8回1死一、二塁の場面に3番手でマウンドに上がり、1回2/3を無失点でプロ初セーブをマークした。新人投手の開幕戦セーブは、日本プロ野球が1974年にセーブを公式記録として導入してから初めてのことだった。

「先発が山田(久志)さんで、8回1アウト二塁かな。そこで(左腕の)宮本(四郎)さんが(2番手で)いったら、右(打者)が出てきたんですよ。それで宮本さんが4つ(ボール球を)投げて(四球で)一、二塁になってから自分(の登板)ですよ。宮本さんが(マウンドに)いってホッとしていたら『キャッチャー、立ったぞ』って言われて、ウワーってなって必死に作って、投げたのを覚えている。緊張とかいうより、もう無我夢中やったですね」

 エース・山田の白星を消さずに済んで安堵したことだろう。しかしながら、プロ初セーブのウイニングボールは持っていないという。「開幕戦で何勝目というのがあったのかな。記念のボールは山田さんに渡しました。そしたら、ニコッと笑っていきなりスタンドに投げられたんですよ。(スタンドに)投げるんやったら、こっちにくれとも言えんから(笑)。まぁ、自分も物欲がなかったから。(記念球を)集める気もなかったですけどね」。

 山沖氏は開幕戦も含め、4月は6登板。すべてリリーフで0勝2敗1セーブ、防御率2.45の成績を残した。7登板目の5月7日の西武戦(西武)でプロ初先発し、完投、無四球で初白星。スコアは3-2だった。打線は初回に2点、3回に1点。山沖氏は3回と5回に1点ずつ失ったが、1点リードを守り切った。この時のウイニングボールは手に入れたという。

「でもね、次の日になくなりました。もらった時にグラブに入れるじゃないですか。それで次の日、そのボールでキャッチボールをしてしまって、そのまま……。打撃練習とかが終わった後に気がついた。“あ、ボールは”ってね。1勝目くらいは田舎に持って帰ってもいいかなと思っていたんだけど、もう(どのボールなのか)わからないから、探すわけにもいかんし(笑)」。記念球には縁がなかったようだが、この白星をきっかけに先発ローテ入りした。

優勝を左右する天王山に先発も…「寝ていないからボーっとしていた」

 中5日で先発した8登板目の5月13日の南海戦(大阪)では、2試合連続無四球完投で2勝目(スコアは6-1)。その後は3連敗を喫するなど黒星が先行したものの、上田利治監督は山沖氏を使い続けた。前期優勝争いの天王山と言われた6月23日の西武との直接対決(西宮)でも先発を任されたが、「初回に(西武・立花義家外野手に)満塁ホームランを打たれて……。大きな試合だったんですけどね」と期待に応えられなかった。

「あれは先発を前日(6月22日の近鉄戦、西宮)の試合中に言われたんですよ。ベンチに入っていたんですけど、勝っていて山田さんがリリーフにいった時に『もう上がっていいから明日先発な』って。(重要な西武戦のため)えーっ、て思っていたら『大丈夫や、明日雨やから』って(ヘッド兼投手コーチの)梶本(隆夫)さんに言われた。で、(寮に)帰ってからは(部屋で)ずっとカーテンを開けて外を見ていた。“降らんか、降らんか”ってね。そしたら寝られなかったんです」

 天気予報も良くなかったが、雨は降らずに本番を迎えた。「寝ていないからボーっとしていた」。1回0/3を6失点で降板となった。「初回は大田(卓司)さんにセンター前かなんか打たれて1点取られて、立花さんに満塁ホームラン(で5失点)。次のイニングも投げたみたいだけど、もう自分、覚えていないです、投げたのを。1回で代えられたと思っていた。ホント、あれはプロで一番の……」と唇を噛んだ。

 前期は西武が優勝した。「だから、もう自分が投げた試合で(事実上)アカンとなったんですよ。あれで西武が有利になったんだと思う。まぁ、ピッチャーがいなかったんでしょうけど、あんな試合を新人に任せたら駄目なんですよ」。とはいえ、プロ1年目から大きな経験となった。いろんな形で上田監督に鍛えられ、山沖氏はステップアップしていった。

(山口真司 / Shinji Yamaguchi)

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