17K&159球の熱投…笑顔のエースが元プロの父に見せる甲子園 二松学舎大付が手にした全国切符

元プロ野球選手の川島慶三氏を父に持つ左腕・川島連十投手(2年)
来春のセンバツ選考の資料となる秋季東京大会の決勝が5日、神宮球場で行われ、二松学舎大付が6-5で岩倉を下して2年ぶりの優勝を果たし、センバツ出場を当確にした。1点差の激闘を17奪三振で投げ抜いたのは、日本ハムやヤクルトで活躍し、来季はDeNAコーチの川島慶三氏を父に持つ左腕・川島連十投手(2年)。夏の東東京大会決勝で敗れた同じマウンドで、笑顔のエースは悔しさを力に変えた。
取材エリアに現れた背番号1は、笑顔に満ちていた。
質問に答えるたびに目を細め、照れくさそうに頬を緩める。その屈託のない笑顔につられて、囲んだ大人たちの表情まで自然とほころんでいく。周りを幸せにする笑顔だった。9回159球の熱投で、17三振を奪った。数を聞かれると「最後の方はもう三振を考えずに投げていたので、後から聞いて、そんなに取っていたんだと思いました」と、また笑った。あどけなさの残るその笑顔からは、ほんの数時間前まで1点差の重圧を一人で背負っていたとは想像しにくい。
この神宮のマウンドには、苦い記憶がある。今夏の東東京大会決勝・関東第一戦。あと一歩で甲子園に届かなかった。「夏は本当に視野が狭くて、一人で抱えてしまう部分がありました」。打たれるほど周りが見えなくなり、マウンドで孤独になった。
あの日から、川島は投げ込みを増やした。週末の試合に関係なく、ほぼ毎日投げ込んだ。頻度も数も増やした。自分一人で投げ切る――。それがこの秋に掲げた目標だった。
「こんなに早くここに戻れるとは思っていませんでした。うれしさが勝ったというか、またここでピッチングができるんだと思いました」

1点差の9回、エースの自覚
初回に味方が4点を先制した。それでも試合は楽ではなかった。6回1死満塁から連打と押し出し四球で3点を失う。「ちょっと嫌な感じになってしまいました」。夏なら、ここで崩れていたかもしれない。
でも、今度は一人じゃなかった。ベンチに戻ると、仲間がいじってくれた。野手全員と「抑えにいくより、打たせるよ」と声を掛け合った。ベンチを見て、周りを見て、視野を広く持つ。夏に学んだことを、マウンドで実践した。
直後の7回は三者連続三振。8回に2点を返され、1点差で迎えた9回も、3者続けて三振に仕留めた。
「ここで打たれたら負けてしまうので、自分がエースだという自覚を持って抑えてやろうという気持ちでした。ピッチャーが崩れたら試合は終わってしまう。気持ちでは負けちゃいけないと。夏からの経験が一番大きいです」

スタンドで見守った父、試合後に交わした言葉
スタンドでは、父が見守っていた。日本ハム、ヤクルト、ソフトバンク、楽天の4球団でプレーし、来季からDeNAのコーチを務める川島慶三氏だ。
試合前、言葉は交わさなかった。「試合だけに集中しようと思っていたので」。元プロの父がすぐそばにいても、自分から教えを請いに行くことはしなかった。「プライドみたいなものがありました」。それでも普段は「友達みたいな感じ」で、ずっと話をする仲だ。
試合後、父から声をかけられた。「とりあえず一つの目標は達成したから、次にどう持っていくかだ」。息子は少し照れながら、本音を明かした。
「試合が終わって会ったら、うれしさというか、自慢したい気持ちになりました。(父は)たぶん(高校時代に)甲子園へ行ったことがないんで、『行ったよ』と言いたいです」
プロの世界を生き抜いた父にも、まだ見せていない景色がある。
川島には、聖地に懸けるもう一つの思いがある。「監督さんを甲子園に連れて行きたいんです」。
高校に入る前は、野球さえうまければ勝手に甲子園に行けるものだと思っていた。だが、監督から教わったのは、技術よりも人間性の大切さだった。「監督は全部知っているんだなと思いました。人としても、技術としても一番成長させてくれて、いつも選手のことを考えてくれていた」。
その市原勝人監督は、決勝のエースをこう評した。「途中から嫌な流れになっていたので、9回もランナーを出してピンチになるのは覚悟していたんですけど、パッと抑えてくれたところが成長かなと思いますね。9イニングを通して上がったり下がったりしたところもあるんですけど、9回の最後のピッチングが川島の成長の姿だなと」。
直前の9回表、二松学舎大付の攻撃はあっさり三者凡退に終わっていた。「本来であれば、あの流れでいくとピンチになるでしょうし、同点、逆転という流れだったと思うんですね。9回表の攻撃で一人でもランナーが出ればよかったんですけど、簡単に終わってしまった。さぞかし苦しいものになったかなと思うんですけど」。
その重い流れを、エースは3者連続三振で断ち切った。指揮官は「川島の心構えですよね」と続けた。
苦しい場面でも、エースは笑っていた。「試合が楽しいので。意識しているというよりは、自然と笑顔になっていることの方が多いです」。
この日、一番うれしかった瞬間を聞かれて挙げたのは、自らの三振ではなかった。8回、先頭の4番・細川悠雅外野手(2年)が放った三塁線への打球を、三塁手の内間叶琉内野手(1年)が好捕してアウトにした場面。初回に適時二塁打を放った1年生が、守備でもエースを救った。「助かりました。本当に今日は野手のみんながよくやってくれたと思います」。
甲子園には2年前のセンバツで、スタンドから見に行った。まだ、あのマウンドには立ったことがない。
夏に悔しさを味わった少年は、もう一人で抱え込まない。仲間がいて、監督がいて、父がいる。
「憧れの場所で、いかに笑顔でできるかだと思います」
インタビューは約20分間、続いた。最後まで笑顔が本当によく似合う男だった。
(楢崎豊 / Yutaka Narasaki)