打点王を獲得した浅村栄斗の成長を支えたものとは
左肩の負傷がスイングに変化を与えた
「天才肌の不思議ちゃん」、「自分だけの世界を持っている」――。ひょうひょうとしていて、どこかつかみ所のない浅村栄斗の性格を、西武ナインは苦笑混じりにそう分析する。マイペースな23歳は、今シーズン途中から12球団最年少の4番打者として大ブレーク。チームメートも目を見張る急成長ぶりで、打点王の初タイトルを獲得した。
本人も驚きの抜擢だった。5月29日のDeNA戦で、打順が7番から4番に昇格した。前夜の試合で、守備のミスと気のない三振が相次ぎ、わずか1打席で“懲罰交代”させられたばかり。奮起を促す渡辺久信監督(現シニアディレクター)の荒療治だった。
安部理打撃コーチ(当時)が振り返る。「あの日を境に浅村は変わったと思う。ああ見えてすごく繊細な子。シュンとなるかと思ったら、監督の前に座って、ベンチでいつも以上に声を出していた」。すぐに挽回のチャンスを与えられると、意気に感じないわけがなかった。浅村自身も「ミスを取り返さないといけないという思いでいっぱいだった」と当時の心境を語っている。
同じ時期、打撃スタイルにも一つの変化が生じたという。
6月、試合中の打席でファウルを打った際に左肩を痛めた。元より、振り抜いたバットが背中に当たるくらいのフルスイングが信条。大きなフォロースルーがあだとなり、左肩が炎症を起こしてしまったという。
だが、痛みを抱えて打席に立ち続ける中、浅村のスイングに変化が現れた。「(左肩に)負担がかからないように振っていたら、体の開きが抑えられるようになった。強引にいかず、ボールもよく見えるんです」。際どいボールの見極めができるようになり、中堅から右方向への鋭い当たりも目立って増えた。今では「ケガをしてよかったかもしれない」とすら振り返る。困難を乗り越える方法も、スイング同様に豪快だった。
打席で生まれた余裕が、周囲を見渡す視野も広げた。試合前の打撃練習で、ソフトバンク・松田宣浩のフォームに目を凝らし、「間の取り方が参考になる。タイプ的に似た人を見るようにしています」。配球の読み、狙い球の絞り込みについても手応えを口にするようになり、確かな成長を感じさせた。