頭をよぎった2年前の夏の記憶 嫌な流れを断ち切った智弁学園監督の“ゲン担ぎ”

智弁学園・小坂将商監督【写真:市川いずみ】
智弁学園・小坂将商監督【写真:市川いずみ】

苦しみの末、智弁学園が奈良大付を破り、決勝進出

 球場には嫌な空気が流れていた。智弁学園の指揮官・小坂将商監督はそれを感じ取っていた。全国高校野球選手権奈良大会は27日、準決勝2試合が行われ、第一試合で今秋のドラフト1位候補の達孝太投手(3年)擁する天理が高田商に6-7のサヨナラ負けを喫していた。小坂監督の脳裏には2年前の夏の記憶がよぎっていた。【市川いずみ】

 この日の先発は左右の二枚看板、背番号10の右腕小畠一心投手(3年)だった。初回、2死から奈良大付の3番・森本将継選手(3年)にバックスクリーンへ本塁打を浴びた。初戦から準々決勝までの3試合は、全て5回コールド勝ち。先制を許したのは、これが初めてだった。

「これでケツに火が付いた」と指揮官が話すように小畠は2回以降ランナーを出しながらも無失点で切り抜ける。しかし、自慢の打線が振るわない。初回から再三チャンスを作るも、3番岡島光星内野手(3年)、4番の主将・山下陽輔内野手(3年)が続けて凡退するなど流れは完全に奈良大付だった。

 ここで、「スタメンは日取りのいい日、大安の日に書く」という小坂監督が嫌な流れを断ち切るために動いた。

 頭にあったのは2年前の7月21日。この日と同じ相手は奈良大付との3回戦だった。智弁学園は当時1年生の小畠を先発させた。しかし、序盤でKOされた。0-7と大きくリードされ、コールド負け寸前まで追い込まれた。その時、流れを変えたのが同じく当時1年生の西村王雅投手(3年)だった。最後は7点差をひっくり返し、9-7で勝利した。「2年前も流れを変えてくれた。流れを変えるなら西村を投入するしかないなと思った」と、5回表から左腕エースにマウンドを託した。

「流れを変えてこい」と指揮官に送り出された左腕は「0点で抑えてやろうと思った」と5回をこの日初めての三者凡退に抑えた。投げるだけではない。その裏の攻撃。先頭の8番・森田空外野手(3年)が中前打で出塁すると、9番に入った西村は初球で犠打を決め「流れを作る役割」をしっかり果たした。

 続く1番の今秋ドラフト候補の前川右京外野手から4連打。一挙、4得点で逆転に成功した。これでいつもの「連打で繋ぐ」攻撃ができたと小坂監督。7回にも打者9人の攻撃で5点を挙げ奈良大付を突き放した。8回2死で「身体がしんどかった」と急遽、西村は降板したが、その裏に7番・竹村日向選手(3年)の左前適時打で10点目。7点差をつけ、10-3でコールド勝ちで決勝進出を決めた。

 決勝戦は29日の午前10時プレーボール。この日の六曜は先勝だ。相手は2年前の同じ日に12-5で下した高田商。「変えることなく繋ぐ野球で挑みたい」。春夏連続の甲子園へ向け、最高の条件が整った。

(市川いずみ / Izumi Ichikawa)

市川いずみ(いちかわ・いずみ) 京都府出身のフリーアナウンサー、関西大学卒。山口朝日放送アナウンサー時代には高校野球の実況も担当し、最優秀新人賞を受賞。学生時代はソフトボールで全国大会出場の経歴を持つ。

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